第三章【夏休み】

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 こーすけが、ぶはっとラムネを吹きだした。 「きったないなぁ、こーすけ!」 「ご、ごめん。そ、そやかておまえ、キィにからかわれとんねんで? うははははっ」 「笑うなよ! キィもからかうな!」  キィは相変わらず無表情に言ってくる。 〝不快感を与えたなら、謝る。ただ、あなたたちを見ているとこういう事もしてみたくなった〟 「……別にいいけどさあ!」  久野が少しきょとんとした顔をしていたが、すぐにひまわりみたいな笑顔をみせた。 「キィも、冗談とか言ったりするんだ」 〝言ってみたくなった。あなた達の影響だと思う〟  ぼくらはその言葉に顔を見合わせて、思わず苦笑い。ただ――少しだけ、うれしかった。  そのとき。  パァン――! 「あ、はじまった!」  久野が、うれしそうに声を弾ませた。花火の打ち上げが始まったんだ。  ここからだと少し花火は小さく見えるけれど、それでも黒い海と空に、色鮮やかな花火が咲く。  赤い大きな花火。黄色の小さな花火がいくつも。青い花火が途中で色をかえて緑になった。金色のしだれ花火が、まるでふってくるみたいに見える。  次から次へ、いろんな色の、いろんな大きさの花火が空に咲いていく。  ぼくはふと、隣を見て目を瞬かせた。  花火を見上げていたキィの横顔が――少しだけ、さみしそうに見えたんだ。 「キィ?」  気のせいかもしれない。そう思いながらも、ぼくは声をかけずにいられなかった。キィは花火を見上げたまま、小さく言葉を呟いてくる。 〝これが、花火?〟 「うん。きれいでしょ?」  ぼくの言葉に、キィは少しだけ沈黙した。キィの様子がなんだか変だと感じたのはぼくだけじゃなかったようで、気付くとこーすけも久野もたけるも、キィの顔を見つめている。 〝星が死滅するときと、なんだか似ている〟 「え?」 〝消えていくものを感じる。少しだけ……奇妙な感じがする〟  じっと次々と撃ちあがる花火を見つめて、キィはそんなことを言った。  たけるがふいに、キィの手をにぎった。 「さみしいの? キィ」  キィは少しだけ沈黙してから、やっぱり花火を見上げたまま小さく頷いた。 〝この感情は、もしかしたらそう称するものなのかも知れない〟  打ち上がる花火は、大きくて鮮やかで、とてもきれいだけれど、一瞬きらめいてしまえば後はすぐになくなってしまうものでもある。キィが感じているさみしさは、もしかしたらそういうものに感じる何かなのかもしれない。  ぼくはその時初めて、花火がさみしいものでもあるって知ったんだ。  次々に打ち上がる花火は色とりどりで、だけどそれを見上げるキィは、ただ一色の真っ白で。  ぼくらは結局何も言えなくなって、キィの映像が消えるタイム・アップの時まで、みんなそれぞれキィの手や肩をにぎって、ただ何も言わずに花火を見つづけた。  キィと一緒に過ごす夏休みは、いつも以上に楽しくて、いつも以上に早く過ぎていった。  夏の太陽は変わらない暑さを降り注いでいた。  時々は久野に教わって宿題をしたり、たけるの朝顔観察日記につきあったり――そんな毎日を過ごしているうちに、いつのまにか八月も終わりに近付いていた。  ぼくらはキィと一緒にいることが楽しくて、海賊やらマフィアやらどろどろ〈コースケ〉やら――そんな奴らの事も忘れかけていた。  来週からは二学期が始まる。その前に、登校日がやってきた。
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