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ぼくはそう前置きをして、こーすけ相手に全部説明した。途中で、こーすけのお母さんが入ってこないか、ちらちらふすまを確認しながら。
たけるに付き合って砂遊びをしていたこと。その最中に鍵を見つけたこと。そしたら、変なマフィアがきたこと。同じ顔で三人になったこと。逃げてフェンスを飛び越えてみたら、今度は海賊の姿になっていたこと。
全部話し終えると、こーすけはとろんとした目になって、ベッドからおりた。そのまま、ぼくの肩をぽんっと叩いて、
「熱あるときは、外出たらあかんで。もうええ。ほら、オレのベッド貸したるから」
「こーすけ!」
いきなり病人あつかいはひどいんじゃないか、こーすけ。いや、ぼくも気持ちはとっても、判るけど。こーすけがこれじゃあ、久野はどうだか……と思って、久野のほうを見た。案の定、久野はメガネの奥の目をつめたぁくさせながら、静かに言ってきた。
「……で?」
「ホントなんだって!」
「人を巻き込んでおいて、片瀬はそういう嘘つくの!?」
「嘘だったらぼくも嬉しいよ!」
膝立ちして叫んでくる久野に、ぼくも膝立ちしながら叫び返す。と、こーすけが割って入ってくる。
「まぁまぁまぁ。亜矢子は? 途中からは見たんやろ?」
こーすけの言葉に、久野はちょっと膨れっ面になって、腕組みをした。
「まあ……見た目は、確かに海賊っぽい格好はしてたわよ。いかれた変質者ってカンジ」
女子って、ひどいと思う。
「同じ顔で三人?」
「三つ子なんでしょ」
こーすけの言葉に、久野はあっさりそう言う。いやだ、あんな三つ子。
「たけるは?」
こーすけが訊ねると、たけるは久野そっくりの膨れっ面で、ぷいっとそっぽを向いた。
「どーせたけるが言っても、ひろともこーすけも信じてくれないんでしょ!」
あ、スネた。
こーすけと顔を見合わせて、苦笑した。
「ちゃうて、そんなんあらへんて。教えてーや。ほんまなん?」
べしべし、と乱暴にたけるの頭を叩きながら、こーすけが笑う。たけるはしばらくスネてたけれど、こーすけを見上げながら、くちびるをアヒルみたいに突き出した。
「ホントだよ。たける、みたもん」
「ふぅん……そうか」
たけるの言葉に、こーすけは頷いた。それから、立ち上がったままふすまを振り返る。さっきのぼくと一緒で、おばさんが入ってこないかどうか確かめているんだ。
「来ぇへんな」
「ふすま開けたら一発じゃない」
久野のつめたい一言に、こーすけはあごを突き出した。
「わぁっとるわ。そやからこないすんねん」
こーすけはそう言って、部屋にあった押入れのふすまをバシンと開けた。
押入れは二段式で、上にはふとんが入っていた。下には、冬服とかそういうものが隅によせてある。で、それがなんで隅に寄せてあるか――は一発で判った。
「……男子ってバカ……」
久野のつめたい呟きが聞こえたけど、ぼくはおもわずにやりと笑っていた。こーすけも同じ、にやり笑いを返してくる。
「面白ぇやろ、ひろと」
「だね」
「かぁっこいー! ひみつきちー!」
そうなんだ。押入れの一段目は、こーすけが手をつけたらしくって、ひみつ基地みたいになっていた。
コンセントを引っ張ってきた、ライトスタンド。壁には世界地図がはってあって、ダンボールで作った本棚にはマンガが一杯つまってた。大きい画用紙とスケッチブック、たくさんの色のマーカーペン。バスケットボールとサッカーボール、それからローラー・ブレードとローラー・シューズ。ブレイブボードももちろんある。スーパーウォーターガン(水鉄砲のすごい奴)。懐中電灯に筆記用具、何のためにあるのかは知らないけど、方位磁石まであった。他にもいろいろ、おもちゃが箱に押し込められている。新しいゲームのポスターもはってある。これ、買う予定なのかな。だったら、今度借りようっと。
「たける、ひろと。とりあえずこっち入れや。ここやったら、おかん来ても、ちょっと時間かせげるから、見られへん」
「うん」
ぼくはたけるの手を引いて、押入れの中に入った。狭いけど、まぁ、三人なら入れなくはない。たけるは小さいしね。
こーすけも続いて入ってきて、ライトスタンドをつけた。
どーでもいいけど、すっごく蒸し暑い。あんまり長くいたら、ぼくの蒸し焼きができるかもしれない。
「……バカ。ほんとバカ」
「バカバカひどいわ、亜矢子ちゃん! こーすけくん、傷ついちゃうっ」
「……埋めて欲しい?」
「ごめんなさいもうしません」
冷たい久野の態度に、こーすけが謝ってから肩をすくめた。
「とりあえず、おかんきたら教えて」
「判ったわよ」
むすっとしながら、久野はふすまの外から顔だけをつっこんできた。
薄暗い、蒸し暑い、息苦しい、けどなんだかわくわくする空間で、こーすけがたけるに言った。
「たける、鍵見せてぇや」
「うん」
たけるは素直に頷いて、右手に握っていた鍵を見せた。
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