ディナー

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 しかし或る日教頭が仕事中に貧血で倒れ、俺が教頭を家まで送ることになった。俺はそこで初めて教頭の奥さんつまり葵さんと出会った。  皆が綺麗だと言うのも当然だった。いや綺麗なんて言葉では足りない。まだ二十代中頃か三十代前半だろう。美人だとか可愛いだとかそんな単純な言葉では表現出来ない。昔の人なら妖怪が化けたとでも言うだろう、葵さんにはそんな少し人間離れした魅力があった。  葵さんは毎晩のように俺の夢に現れた。俺は夢の中で何度も葵さんと愛し合った。だが目が覚めるとそこに葵さんの姿は無い。  そんな時だった。教頭が遠方に出張するすることを知った。俺は教頭不在の中で葵さんを尋ねた。それがどれだけ馬鹿げているかぐらいは分かっている。相手は教頭の奥さんだ。しかも葵さんは俺のことを夫の学校の一教師程度にしか思っていないだろう。名前を知っているかさえ怪しい。だが俺は自分を抑えることが出来なかった。  俺は教頭宅のチャイムを押した。ドアが開き葵さんが現れた。俺は夢と現実が交じり危うく彼女をその場で抱きしめるところだった。
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