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「…中で少しお話しましょうか」
意外にも受け入れてもらうことが出来た。葵さんは俺をダイニングへ案内した。艶やかな黒髪、身体にフィットしたワンピース、そこから覗く白い脚、そして何より微かに感じる葵さんの匂い。俺は直ぐにでも押し倒したい気持ちだった。
「坂本さんはもう夕食は済みましたか?」
「えっと、まだです」
「じゃあ一緒に食べながらお話しましょうか」
そう言うと葵さんはキッチンへ行き料理を作り始めた。俺は正直葵さんに追い返されると思っていた。何故なら俺はこれから自分の務める高校の教頭の奥さんに手を出そうとしているのだ。
緒方教頭は物静かであまり目立たない人だ。ずっと独身だったし、既に五十を過ぎており皆このままずっと独身だろうと思っていた。それが突然結婚するということになった。
式も披露宴もなかったし、俺はしばらく奥さんがどんな人か全く知らなかった。噂では教頭よりもずっと若い綺麗な奥さんだと聞いていたが若いといっても四十くらいのそこそこの美人なんだろうと思っていた。
しかし或る日教頭が仕事中に貧血で倒れ、俺が教頭を家まで送ることになった。俺はそこで初めて教頭の奥さんつまり葵さんと出会った。
皆が綺麗だと言うのも当然だった。いや綺麗なんて言葉では足りない。まだ二十代中頃か三十代前半だろう。美人だとか可愛いだとかそんな単純な言葉では表現出来ない。昔の人なら妖怪が化けたとでも言うだろう、葵さんにはそんな少し人間離れした魅力があった。
葵さんは毎晩のように俺の夢に現れた。俺は夢の中で何度も葵さんと愛し合った。だが目が覚めるとそこに葵さんの姿は無い。
そんな時だった。教頭が遠方に出張するすることを知った。俺は教頭不在の中で葵さんを尋ねた。それがどれだけ馬鹿げているかぐらいは分かっている。相手は教頭の奥さんだ。しかも葵さんは俺のことを夫の学校の一教師程度にしか思っていないだろう。名前を知っているかさえ怪しい。だが俺は自分を抑えることが出来なかった。
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