第六話 婚約指輪

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「昨日、香織さんと会ってるところを見ました」  落ち着いた所で、ようやく昨日のことを話す。  郁也さんがその言葉に対してどう返すのか、それ次第で彼との関係性が決まるかもしれない。  そう考えると怖くて、同時に緊張していると、数秒の沈黙後に彼が言葉を返してきた。 「香織とは昨日で全部終わらせてきた」 「……え」  予想外の回答だった。  言葉の理解に遅れ、思わず顔を上げる。  けれど郁也さんがあまりにも優し気な表情で私を見てきたため、また泣きたくなると同時にその言葉は事実だと思えた。 「昨日、お前も街に行っていたんだな。どの場面を見たか知らないが、香織とは昨日で全部終わらせるつもりだった」 「……楽しそうに笑っていました」 「あー、じゃあ機嫌取りの場面か」 「機嫌取り……?」 「機嫌が悪いと途中で帰るやつだから、機嫌が良い時に全部話をしようと思ってな」  それで、わざと楽しそうに振る舞っていた……?  私はその言葉を信じて良いのだろうか。 「それにしてもお前がそれを見て乱すとはな?面白いモノが見れた」 「なっ……違います!私はただ香織さんとの時間を優先したいだろうと思って……」 「香織はお前の言う通り、俺の金目当てだった。あいつは他にも男たぶらかして、貢がせてたみたいだ。お前と会ってないと一生気づかないまま、香織との関係が続いていたかもな」  馬鹿だろう?と郁也さんは軽く笑っていたけれど、馬鹿さでいえば私も負けていない気がする。  それだと私たちは互いに馬鹿同士だということになってしまう。あながち間違いではない気がするけれど。
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