第六話 婚約指輪

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 本当に待っているんだ。  彼なら怒って地下に行くか、外に出掛けそうだと思っていた。  緊張感が高まる中、ゆっくりと息を吐いてから扉に手をかける。  意を決して扉を開けた時、視界に広がるのはリビングの景色──ではなく、目の前に立っていた郁也さんだった。  どうやら彼もリビングの扉を開けようとしていたようだ。 「やっと帰ってきたか。遅い」  心なしか嬉しそうな声をあげる郁也さん。  けれど私は、優希くんの言葉がなかったらきっと戻ってくる勇気は出なかった。  今も郁也さんや自分の気持ちから逃げたままで、強がり続けたままで── 「ほら、とりあえず中に入れ……って、泣いてるのか?」 「……泣いてません」  咄嗟に俯いたけれど、自分でも泣いているのがわかった。涙で視界が歪み、温かいそれが頬を伝う。  目を擦って涙を拭おうとしたけれど、その前にふわりと何かに包まれた。 「泣くな、お前に泣かれると調子が狂う」  気づけば私は、郁也さんの腕の中にいた。  優しい抱きしめ方に、涙が止まることなく溢れてしまう。  こんな状況で泣き止めと言われても無理だ。 「郁也さんのせいです……」 「俺が悪いのか?」 「全部、郁也さんが悪いです……だから責任取ってくれないと許しません……」 「責任の前に、昨日から態度が急変した理由を言ってくれないと何もしてやれないだろ」  まるで、泣く子どもを落ち着かせるように頭を優しく撫でられる。その大きな手が私に安心感を与えさせた。
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