第一話 望まない結婚

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第一話 望まない結婚

「互いに望まない結婚だということで、三年以内に離婚という形でよろしいですよね?」  中身のない、形だけの結婚式を済ませた日の夜。  ホテルのスイートルームという夜景が一望できる贅沢な場所で、私は迷わず離婚の話題を口にした。  九条朱莉(くじょうあかり)、二十歳の現役大学生。  アルバイトと勉学に励み、友人関係も良好の中で突然結婚話が舞い込んできた。  拒否する権利など私にはなく、ほとんど面識のない男と結婚し、九条朱莉から(さざなみ)朱莉へと苗字が変わった。 「それは……どういうことだ」  初めて相手の無表情が崩れ、狐につままれたような顔をしていた。  それだけで、幾分心がスッキリしたような気がした。  その清々しさを表すようにして、満面の笑みを浮かべてやる。 「言葉通りです。それとも何故三年以内なのかと仰りたいのですか?」  自分で質問しておきながら、相手が再び口を開く前に言葉を続ける。 「離婚というものは、結婚して三年から五年に多いようです。初々しい結婚生活から徐々に慣れを覚え、性格の不一致など些細なことで不満が溜まり爆発する……三年目に『このまま一生幸せに暮らせるのだろうか』と疑問を覚え、話し合った結果、離婚という結末に行き着くことにするんです。もちろん、円満離婚ということでどうでしょう?」  つい上機嫌で話してしまったけれど、結婚式の前からずっと相手と話したかった内容である。  ようやく話せることができ、多少上機嫌で話すことも許して欲しい。
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