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先輩たちのご好意
そうこうしているうちに——
窓の外を眺めていたサチさんが突然、
「おっ、校舎前にいるアイツは!」
と叫んだ。誰か見つけたようだ。
ニヤリとした顔で俺の方を振り返り、そして今度は窓の外に身を乗り出し——
「おーーーい、ナツ!!! オマエ、今から帰るのか!!!」
大声で叫び出した。たぶん、校舎前にいるのはサチさんの後輩にして、俺の…… まあ、なんと言うか気になる人物である、我が部期待のオーボエ奏者ナツこと相田夏子を見つけたんだろう。
『当ったり前でしょっ!!! いくらアタシがバカだからって、今から音楽室に戻ってオーボエの練習しようなんて思いませんよ!!!』
大声で怒鳴り返しているのは、やっぱりナツのようだ。ナツもサチさんと同じく元野球少女であるため、二人とも声がとてつもなく大きい。
サチさんの大声が更に続く。
「ルイのヤツ、傘持ってネエんだ!!! オマエ、ルイを家まで送ってやれ!!!」
『ハア? あのマジメなルイが傘を持ってないわけないでしょっ!!! サチさん、また人の傘パクったんですか!? 昔、アタシらはよっぽどサチさん家が貧乏なのかなって——』
「その話はもういいんだよ!!! 大声で誤解を招くようなこと言うんじゃネエよ!!!」
『ああ、もうわかりましたよ!!! じゃあ、ルイに早く来いって、言っといて下さいねっ!!!』
二人の会話が終わったようだけど…… またニヤニヤした顔をしたサチさんが俺を振り返り口を開く。
「そういうわけだ。ルイ、ここはもういいからオマエはもう帰れ。いやぁ、とても気配りのできる先輩をもって、オマエは幸せ者だな」
一人でご満悦なご様子のサチさん。
「ちょ、ちょっとサチさん! 俺とナツはそんな関係じゃないって言ってるでしょ!」
サチさんめ…… この人、俺のナツへの想いに気づいてるんだろうな…… でも別に、俺とナツは付き合ってるとか、そういう関係じゃないんだ。第一、ナツが俺のことをどう思ってるかなんてわからないし…… ああっ、もう!
「それに、俺まだ楽器の片付けが終わってないんで——」
俺は口を開いたが、A先輩が俺の言葉を途中で遮り、
「いいよ、僕がやっとくから!」
と、言ってくれた。そして、
「いつもお世話になってるんだ。こういう時ぐらい協力させておくれよ!」
という言葉を贈ってくれた。
そう、A先輩はとても優しい人なのだ。
「……オマエ、後輩のお世話になってどうすんだよ。まあ、いいや。そういうことだから、ルイは早くナツのところに行け」
サチさんもそう言ってくれるので…… よし、じゃあお言葉に甘えることにするか!
「アザっす!!! 後のこと、よろしくオナシャっす!!!」
俺は大声でお礼の言葉を叫び、自分の傘をサチさんに押し付けた後、ナツが待つ校舎前目掛けて駆け出した。
俺も元野球少年だ。声の大きさではサチさんのたちに引けを取らない。野球少年だった頃の癖で、全力で叫んでしまったのだが…… A先輩が若干ビビっていた。明日ちゃんと謝ろう。
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