5人が本棚に入れています
本棚に追加
中学生だったあの日
ナツはサチさんと同じく、俺が以前所属していた野球チームの元チームメイトだ。ナツは小学生の頃とても足が早かったので、ずっと1番バッターを務めていた。
しかし中学に入ってすぐレギュラーの座を他の男子に奪われ、中2の夏にはベンチメンバーからも外された。あれは事実上の戦力外通告だったんだと思う。中学生になると、男女の体格差がより顕著になるのだ。
こうして中2の夏、ナツは黙ってチームから去った。
あの時俺は、自分の心の真ん中にポッカリ穴が空いたような気がした。
俺はナツのことが好きだったんだと気づいた。
でも、もう遅かったんだ。
俺たちのチームは『シニアリーグ』に属している学校外の野球チームだった。俺とは違う中学に通っていたナツとはそれっきり、中学を卒業するまで会うことはなかった。
その後、俺は中3の夏に足を負傷した。中学最後の大会にも出場できなかった。チームの中に自分の居場所がない辛さを初めて知ったのだ。
きっとナツもこんな思いをしてたんだろう。ナツがチームを去る決心をした時、俺は彼女になにも言葉をかけることが出来なかった。これはその報いかも知れない、当時の俺はそう思った。
***
俺はナツが待つ校舎前へと急いだ。
「ごめんナツ、待たせたな!」
校舎前に到着した俺は、ナツに声をかけたところ……
「えっと…… 今来たところ?」
「何言ってんだ? お前、さっきからずっとここで待ってただろ?」
「こういう時は『今来たところ』って言いなさいと、中学の時、先生が言ってたんだ」
「どんだけ恋愛マイスターな先生だよ…… その人、本当に先生だったのか? まあいいや、早く帰ろうぜ」
最初のコメントを投稿しよう!