中学生だったあの日

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中学生だったあの日

 ナツはサチさんと同じく、俺が以前所属していた野球チームの元チームメイトだ。ナツは小学生の頃とても足が早かったので、ずっと1番バッターを務めていた。  しかし中学に入ってすぐレギュラーの座を他の男子に奪われ、中2の夏にはベンチメンバーからも外された。あれは事実上の戦力外通告だったんだと思う。中学生になると、男女の体格差がより顕著になるのだ。  こうして中2の夏、ナツは黙ってチームから去った。  あの時俺は、自分の心の真ん中にポッカリ穴が空いたような気がした。  俺はナツのことが好きだったんだと気づいた。  でも、もう遅かったんだ。  俺たちのチームは『シニアリーグ』に属している学校外の野球チームだった。俺とは違う中学に通っていたナツとはそれっきり、中学を卒業するまで会うことはなかった。  その後、俺は中3の夏に足を負傷した。中学最後の大会にも出場できなかった。チームの中に自分の居場所がない辛さを初めて知ったのだ。  きっとナツもこんな思いをしてたんだろう。ナツがチームを去る決心をした時、俺は彼女になにも言葉をかけることが出来なかった。これはその報いかも知れない、当時の俺はそう思った。 ***  俺はナツが待つ校舎前へと急いだ。 「ごめんナツ、待たせたな!」  校舎前に到着した俺は、ナツに声をかけたところ…… 「えっと…… 今来たところ?」 「何言ってんだ? お前、さっきからずっとここで待ってただろ?」 「こういう時は『今来たところ』って言いなさいと、中学の時、先生が言ってたんだ」 「どんだけ恋愛マイスターな先生だよ…… その人、本当に先生だったのか? まあいいや、早く帰ろうぜ」
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