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ナツはバカなのか?
また二人で一つの傘をさしながら歩き出した俺とナツ。
隣にいるナツの表情をうかがうと……
また真面目な顔をしている。まったく、表情がコロコロとよく変わるヤツだ。
「おい、どうしたんだよナツ?」
俺が問いかけると——
「あのさあ……」
なんだよ、またサチさんの家の話か? 今度はもう引っかからないからな?
「今のアンズの態度って、アタシたちに気を使ってるんだろ? それで、あわよくば付き合っちまえって思ってるんだろ?」
「え? お、おい、お前、何言ってんだ? またボケるんじゃないのかよ? 男女の恋愛事情とか、お前、理解出来たのかよ?」
「アタシだってお年頃なんだ、それぐらいのことわかるよ。でも…… アタシさあ、正直言って、付き合うとか、よくワカンナイんだよね。なあルイ。なぜ人は付き合うんだ?」
「……なんだか哲学的な問いだな。俺もよくわからないけど…… たぶん一番の理由は、好きな人を独り占めしたいからじゃないのかな。やっぱり、好きな人が他のヤツに取られたら嫌だろ?」
「じゃあ、ルイはアタシが他の男子と付き合ったら嫌なの?」
真っ直ぐに俺の瞳を見つめるナツ。ナツの勢いに押され、躊躇いがちに俺は応える。
「…………ああ、嫌だ……な」
「そっか…… そう考えると、アタシもルイが他の女子と仲良くしてたら嫌かもしんないな。『なんだよ、ルイのことよく知らないくせに』って思うよ、きっと。ほら、オマエ、女子からすると顔はカッコイイみたいだからさ、『なんだ? やっぱり顔か? 人生の優先順位は顔なのか?』って感じで」
なんだよそれ…… じゃあ、お前は俺のことカッコいいって思わないのかよ?
ちょっとムッとしたので言い返してやった。
「別に俺、そんなにカッコよくねえよ。でも、それを言うならお前だって、男子たちから美人だって言われてるじゃねえか。なんだっけ? お前、中学の時、言われてたんだろ? 『美人爆発しろ、でもアンタはバカだから許す』だっけ?」
「フッフッフ。高校入学当初、アタシにつきまとってきた男子たちも、バカなアタシの本性を知った今となっては、誰もアタシと目を合わそうとしないんだ。嗚呼、バカって最高だ!アタシはそんなバカな自分が大好きなのさ!」
「ハァ…… なんだよそれ? まあ、ナツがバカなのかどうか知らないけど、確かにナツのいいところは、バカみたいに誠実で、バカみたいに物事に対してひたむきに取り組むところだからな」
「な、なんだよオマエ! ひ、ひょっとして、コクってんのかよ!」
「バ、バカ! お、俺は事実を言っただけだよ!」
やっぱりナツと話していると、恋人っぽい雰囲気にはならないようだ。でも、俺はこういうバカっぽい話をナツとするのが、たまらなく嬉しいんだ。
「なあ、ルイは誰か他の女の子と付き合いたいって気持ちはあるの?」
あると言えばナツは焦ってくれるのかな? でもダメだ。元キャッチャーだった俺の勘が、ここでそんな駆け引きみたいなことをしたらきっと打たれると言っている。よし、ここは直球勝負だ!
「ない!」
俺は短い言葉で答えた。
「そうなんだ。アタシも今はオーボエが恋人なんだ。だから浮気するつもりはないんだよ。じゃあ、二人とも誰かに取られたりする心配はないね。それなら、アタシたちは付き合うとか、そういうことは考えなくてもいいじゃないか! いやぁ、なんだかホッとしたよ。というわけで、明日早速アンズに報告しとくからな」
いったい、どんな報告をするつもりなんだ?
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