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ストライク
でもまあ、もし仮に俺とナツが付き合うことになったとしても、きっと俺たちの関係は今までとあんまり変わらないんだと思う。
きっと愛とか恋とかそんな甘い雰囲気は一切なくて、今日みたいにバカなことばっかり喋ってるんだろうな。
なら、ナツが言うように、今は別に付き合うとか、そんなことは考えなくてもいいのかも知れないな。焦る必要なんてないや。
俺はそう思った。
「やっぱり、アタシとルイの関係は、これまで通りが一番だと思うんだよね」
なんだよ。やっぱりナツもそう思ってたのか。
「これまで通りか。それもいいかも知れないな」
俺がそう応えると——
「だろ! 1番打者のアタシの仕事は塁に出ること。2番打者のルイの仕事はアタシを次の塁に進めること。アタシを上手く活(い)かせるのは、やっぱりルイしかいないんだ! 吹奏楽部でも二人で協力して、みんなを引っ張って行ってやろうゼ!」
なんだ、ナツは野球をしてた頃の話をしてたのか。小学生の時、俺はバントでも右側に転がす進塁打でも、なんでもこなせる器用な性分だったので、打順は2番だったのだ。
それにしても、ナツにしては難しいことを言うじゃないか。ちょっとは成長してるんだな。よし、じゃあ俺もナツに乗っかってやるか。
「そうだな。俺が吹いてるチューバは、目立つメロディを担当することは少ないんだろ? でも、低い音をめいっぱい響かせて、他の楽器の演奏を支える大事な役割があるんだって、なんか、サチさんがそんなこと言ってたな」
「ああ、そうだよ! だから野球やってた時みたいに、今度は音で、またアタシを支えてくれよな! それで、みんなで全国大会に行くんだ! ルイ、絶対一緒に全国に行こうな!」
「そうだな。全日本吹奏楽コンクールの全国大会は、『吹奏楽部の甲子園』って言う人もいるんだろ? いいよな、その言葉の響き。なんだか元野球少年の心を熱くするよ」
「元野球少女の心だってアツくなるゼ!」
「ようだな! ヨッシャッーーー!!! ナツ! そんじゃあ、俺たちの甲子園目指して、これからも練習、頑張ろうゼ!!!」
「くぅーーー! ルイは普段クールなくせに、ココ一番ってとこではアツいんだよ! アタシはルイのそういうところが好きなんだ!!!」
「オッ、オウ………… あ、ありが…… とう」
「ん? なんでオマエ、顔が赤いんだ?」
「ウッセエよ……」
ナツは絶対、ピッチャーには向いてないと思った。だって、俺のミット…… じゃなくてハートのど真ん中へ、こんなに甘い球を投げ込んで来るんだから。
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