私たちは恋をしない ―笹野夏菜子―

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 二度目のほうが緊張するものなのかもしれない。緊張しているのを悟られるのが嫌で、私はさっさと目を瞑った。  森緒君は、前と同じように私の肩に手を添え、唇を軽く触れさせる。一度離してから、もう一度。今度はしっかりと。私も負けていてはいけないと思って、押し付け返してみることにした。  しばらくそうしていると、「夏菜子、少しだけ口を開けて」と彼は言った。目を開けると、森緒君が切なげな目で私を見ていた。  口の中を見られることに戸惑いながらも、歯医者でするみたいに、私は控えめに口を開けてみた。 「違う。そうじゃないよ、夏菜子、ふざけているの」 「ふざけてなんか」 「キスをしたまま、少し唇の力を抜いてくれたらいいんだよ」  口を閉じると、森緒君はもう一度キスをした。それから、私の唇をこじ開けるようにして、中に入り込んできたのだ。驚いて押し返した私を見て、森緒君のほうがもっとびっくりしている。 「もしかして、夏菜子ってこういうことをするのは、初めてなの?」 「それがどうかした?」  ばれたなら開き直るに限る。 「いや、どうもしないけど、良かったのかなと思って」  彼はまた悪いことをしたなと、良心を痛めているんだろう。案外いいやつなのだ、森緒君は。 「私のこと、百戦錬磨のビッチだとでも思っていたの」 「そんなことは言っていないし、思ってもいないよ。ただこの前も、まるで動じていなかったから、慣れているんだなって思っていただけ。緊張して損したな」  森緒君は、ふうと大きなため息をついた。 「森緒君が緊張をしていたの」 「そりゃあね」 「もしかして、森緒君も初めてだったりする」 「それって言わなきゃだめ」  嫌そうな顔をするところを見ると、どうやら森緒君も初めてのようだ。その割に手慣れた感じに思えるから、もしかしたら一人で練習してみたのかもしれない。私みたいに。  実際にしてみるのと想像とでは、全く違ったけれど。森緒君もそう感じているんだろうか。 「別に言わなくてもいいけど」 「まあいいや。続きをしよう」  もう一度森緒君はキスをした。また舌が入ってきたけれど、今度はびっくりせずに、なんとか対応できた気がする。  しばらくそうしていると、随分慣れてきて、頭の中がとろんとしてきた。もしかしたら、森緒君だってそうなのかもしれない。なんとなく、熱っぽい目をしている気がするから。
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