私たちは恋をしない ―笹野夏菜子―

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 森緒君に言われて、私は頭の中で考えてみた。お父さんと森緒君のお母さんとの子どもを、コウノトリさんが運んで来たら困ってしまうなと。だって、私は兄弟なんて望んでいないし、赤ちゃんなんて最も苦手なものの一つだから。 「困るね。あの二人、何を考えているんだろう。全くどうしてやろうか」  舌うちした私に、森緒君は安堵したようだった。彼の中での私は、きっと悪いことが大好きな女の子なのだ。実際そうなんだけど。 「じゃあさ、僕たちの力であいつらを別れさせよう。罪悪感に訴える方法がいいと思うんだ」 「罪悪感に訴える。なかなか楽しそう」 「そう言ってくれると思った。笹野さんなら」  これは多分褒め言葉だ。少なくとも私は嬉しいから、褒め言葉として受け取っておくことにした。  そんなわけで、私たちは、あいつらを別れさせる為に共犯者になった。  森緒君が、あいつらが関係を持っているのを知ったのは、偶然ホテルから出てくるところを見たかららしい。お父さんは学校の行事によく参加するから、全校生徒に顔を知られている。それなのに、近場のホテルに行くあたりが、私のお父さんなのだ。  彼の調査結果によると、ここ数か月の間、PTA会議がある度に、二人は逢瀬を重ねているらしかった。学校を出たあと、近くの駅までお父さんが歩き、森緒君のお母さんが車で拾うんだそうだ。それから数駅離れたところにあるホテルへ、二人で仲良く向かう。さぞ楽しいんだろう。  でも、ホテルでPTAの会議をしていないとは言い切れないなと思ったけれど、会議のあとに帰ってきたお父さんに近づいたら、うちの家にはないシャンプーの匂いがした。  どうやらクロのようです、と私は森緒君に報告をした。最初からそう言っているよ、と彼から返信が来た。
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