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「どうして今まで黙っていたの。帰国した時って、もう二ヶ月も近くも前なのに」
顔を上げると、楓さんが眉をキュッと真ん中に寄せて、僕を非難するように見ていた。
「どうしてか……ね。楓さんが気にするかと思ったからかな」
「当たり前じゃない。だって花名さんのことがなければ、葉くんは私じゃなくてもいいんだから」
「いいんだよ。楓さんはマスターのことを好きなままで。僕もまだ完全に心の整理がついたわけじゃないし、別に今、他に好きになれそうな人なんていないんだから」
僕は彼女の話を遮って言った。
「でも、そんなのフェアじゃない。それならもういっそ」
「会わないって言うと思った。だから、黙っていたんだよ。本気になって楓さんを困らせたりしないから心配しないで。僕は今までと何も変わらないと約束するからさ」
楓さんがホッとした表情になったのが分かり、僕は胸の奥に小さな痛みを感じた。
「そろそろ行くよ。夕方からバンドのリハがあるんだ。少し寝てから行きたいから」
「寝る前に何か食べた方がいいと思うけど」
「わかった。楓さん、またね」
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