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「向こうって誰のことですか」
楓さんは明らかにうろたえる顔をした癖に、「ただの例えだってば」と苦しげな誤魔化し方をする。
「絶対例えなんかじゃないですよね。どんな人だろうな。楓さんが好きそうな人って」
「ちょっと! 周りに聞こえるじゃない」
きょろきょろしながら、人差し指を立てて、楓さんは怖い顔をする。
「へえ。楓さん、ここに好きな人がいるんだ。今日はセッションの日だし、ミュージシャンってことですよね。それで、学生は対象外と。卒業していればいいんですか?」
「だから、ただの例えだってば」
「いいじゃないですか。隠さなくても」
「私も葉くんの好きな人なんて知らないんだから、フェアじゃないでしょ」
多分そう言ったら引きさがると思ったんだろう。楓さんは僕が飲み終えたカクテルのグラスを下げて、カウンターから離れようとした。
「僕? 別に隠していないですしいいですよ。早川先生の彼女です。僕にとっては、高校と大学の同級生ですけど」
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