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「楓さん。先生がニューヨークにいるという話は、誰から訊いたんですか」
花名が会う気があるのかないのかわからないけど、先生が今どこにいるのかくらい知っておいてもいい気がした。
「えっと、私はマスターに。マスターは、多分……園原さんじゃないかなと思うけど。マスター、早川さんがまた急にいなくなっちゃったから、凄く心配しているんだよね。だからニューヨークにいるとわかっただけでもいいって言っていたけど」
「また?」
「あ、うん。昔、そういうことがあって」
先生には失踪癖でもあるんだろうか。
ニューヨークに来たのは、花名に会う為だと思っていたけど、そうじゃなかった?
昔、先生と車の中で話したのを思い出す。
先生はあの時、確かに花名を諦めるつもりはないと言っていたんだよな。
それなのに……。
ライブハウスで見た先生と外国人の女性カメラマンの親しそうな姿を思い出すと嫌な気分になる。
あれから暫くの間、花名はふさぎ込んだままだったし、一見平気そうに見えるようになってからも、先生の話を一切しなくなったんだよな。
話をしないからと言って、忘れたわけではなさそうで、時折どこか遠いところを見るようなぼんやりとした表情をしてはため息ばかりついている。
あの時は、先生に対して怒りしか感じなかったけど、今となっては、いっそのことあの時先生をぶん殴ってやれば良かったんじゃないかと思えてくる。
そうすれば花名だって、スッパリと思い切ることができたかもしれないし、僕も先生になんて遠慮することなく彼女にアタックできるのに。
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