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「ね。友達ポジションって、葉くんは高校からずっと片思いしているってこと?」
「まあそうなりますね」
急に楓さんは他人のことなのに、泣きそうな顔をした。
「そんな見込みのない恋なんて、やめておけばいいのに。葉くんモテるんでしょ。さっきそう言っていたじゃない」
「やめられるくらいなら、とっくの昔にやめていますよ。そういうもんじゃないんですかね」
「そうだよね……」
はあ、と深いため息をついているところを見ると、どうやら楓さんも見込みのない恋をしているらしい。
「葉くん。絶対に誰にも言わないって約束してくれる? 誰にも言ったことないんだ」
楓さんはカウンター越しに僕に近づき、急に声を潜めた。
「言わないですよ。それに僕、またすぐ向こうに戻りますし」
「私さ、マスターのことが好きなんだよね。ここにバイトに入った頃からずっと。ほんと、やめられるものならやめたい。年々辛くなってくるし」
芦住マスターとは、意外だったな。確かにイケメンという感じじゃないし、年上には違いないけど。
「マスターかあ。ま、でもマスターって彼女とかいなさそうだし、見込みがないわけでもないんじゃないですか」
「完全に恋愛対象に入っていないっぽいから」
楓さんはグラスを洗いながら、まだ入り口の辺りで話し混んでいるマスターと園原さんの方に寂しそうな視線を向けた。
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