飛び入りセッション【二年前】

9/22
前へ
/106ページ
次へ
「ね。友達ポジションって、葉くんは高校からずっと片思いしているってこと?」 「まあそうなりますね」  急に楓さんは他人のことなのに、泣きそうな顔をした。 「そんな見込みのない恋なんて、やめておけばいいのに。葉くんモテるんでしょ。さっきそう言っていたじゃない」 「やめられるくらいなら、とっくの昔にやめていますよ。そういうもんじゃないんですかね」 「そうだよね……」  はあ、と深いため息をついているところを見ると、どうやら楓さんも見込みのない恋をしているらしい。 「葉くん。絶対に誰にも言わないって約束してくれる? 誰にも言ったことないんだ」  楓さんはカウンター越しに僕に近づき、急に声を潜めた。 「言わないですよ。それに僕、またすぐ向こうに戻りますし」 「私さ、マスターのことが好きなんだよね。ここにバイトに入った頃からずっと。ほんと、やめられるものならやめたい。年々辛くなってくるし」  芦住マスターとは、意外だったな。確かにイケメンという感じじゃないし、年上には違いないけど。 「マスターかあ。ま、でもマスターって彼女とかいなさそうだし、見込みがないわけでもないんじゃないですか」 「完全に恋愛対象に入っていないっぽいから」  楓さんはグラスを洗いながら、まだ入り口の辺りで話し混んでいるマスターと園原さんの方に寂しそうな視線を向けた。  
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加