飛び入りセッション【二年前】

12/22
前へ
/106ページ
次へ
*  数曲セッションに参加した僕は、ぐったりと疲れて、カウンターに戻ってきた。 「楓さん、なんかお酒作って」 「どうしたの? 疲れた顔して」 「コテンパンにされたんですよ。園原さんって、容赦ないですね」 「そう? 葉くん上手だなと思って聴いていたんだけど」  努力は人一倍しているつもりだったし、それなりに手ごたえを感じられるんじゃないかと思っていた。  だけど、僕を試すように仕掛けてくる園原さんの演奏に対して、翻弄されるばかりだった。  こんなもんかと思われたのは明らかで、正直めちゃくちゃ凹んでいる。  先生は、園原さんと互角に渡り合えるんだろうと思うと、猛烈な嫉妬心が襲ってくるし。 「緊張しすぎて、喉乾きました」 「OK」  カウンターに肘を置きながら、セッションの様子を眺めていた僕の前に、淡い黄色のカクテルが置かれた。カクテルグラスには、ライムが添えられている。 「どうぞ」 「これ、何て名前」 「コンチータ。くじけないでというカクテル言葉があるお酒。テキーラベースだけど、飲みやすいと思うよ」  くじけないで……か。楓さんなりの励まし方なんだな。  
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

88人が本棚に入れています
本棚に追加