飛び入りセッション【二年前】

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* 「おーい。葉くん、起きなよ。もう帰るから」  目を覚ました僕の顔の横にゴトンと置かれたのは、今度は水じゃなくてトランペットのケースだった。 「……ほんと、よく眠れるね。睡眠不足?」  頭がぼんやりして、ここがLazyBirdだと気づくまでに少し時間がかかった。  ああ、楓さんか。 「確かに最近あまり眠れていないかもしれないですね。時差ボケもあると思いますけど」  そう言いながら店内を見回すと、またあくびが出た。店内にはもう誰も残っていない。 「楓さん、マスターは?」 「園原さんを送っていったから、今日はもう帰ってこないけど」 「あー、しまったな……。園原さんにも挨拶し損ねた」 「ふたりとも帰り際に、こんなところで眠れるなんて大物だなって笑っていたけどね」 「かっこわる……」 「眠れないの?」  すっかり流れたと思った話を、楓さんが引っ張っり戻してきた。 「どうして? 何かあった?」  彼女は矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。 「最近ひとりだとなんか寝付けないんですよ」  目を擦ってから顔を上げると、楓さんが苦虫を噛み潰したような顔で僕を見ていた。 「うわー、モテ発言」 「ああ、違いますよ。ってか、何想像しているんですか。楓さんって結構」 「ちょっと。だって、なんかそういう言い方だったでしょ。別に想像なんてしてないから。ねえ、そういう笑い方されるとムカつくんだけど」  慌てた様子で言い訳をする楓さんが、なんだか可愛らしく見えて、僕はついにやけてしまっていたらしい。
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