飛び入りセッション【二年前】

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* 「最大のチャンスがあったんですよ。ここで押しきれば、多分花名は流されてくれるだろうっていう。でも、弱りきっている彼女の心につけいることに抵抗を感じて、僕は結局友人のままでいることを選んでしまった。そのくせに、それを後悔している自分もいて……」 「花名さんは、葉くんの気持ちを知っているの?」  楓さんは、頬杖をつきながら僕の話を聞き、たまにストレートのウイスキーを飲む。  モノトーンの寝具で揃えたクイーンサイズのベッドと、脚の長い丸テーブルに椅子が二脚。  部屋の隅に置かれたキャビネットの上には、レコードプレイヤーが置かれ、クルクルと回転を続けて、Mal Waldronのピアノに合わせJackie MacLeanが平べったく潰したような哀愁漂うサックスの音色を響かせ続けていた。  楓さんの部屋は殺風景だ。  Left Aloneは哀悼の曲だから、ただでさえ寂しい気分になるのに、プツプツというレコード特有の音が、ますます物悲しい気持ちを誘う。  楓さんはいつもひとりでウイスキーを飲みながら、深夜にこんな曲を聴いているんだろうか。  少しも顔色が変わっていないところを見ると、相当酒に強いんだろうけど、僕なら悪酔いしそうだ。
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