88人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は楓さんがウイスキーを注いでくれようとしたのを断ったから、同じような色のお茶を飲んでいる。
興味がないわけじゃないけど、ウイスキーなんて僕にはまだ早い気がして。
「言葉にすると恥ずかしいからやめてくださいよ。誰かと付き合ったりすれば、このまま彼女の良い友人でいられるんじゃないかと思わなくもないんですけど、そんなの相手に悪いじゃないですか」
「案外真面目だよね、葉くん。付き合っていくうちに、相手のことを本当に好きになるかもしれないじゃない」
「ならなかったら? そんなギャンブルみたいなことしたくないんですよ。僕と同じような気持ちにさせたいわけじゃないので」
「じゃあ、既婚者か彼氏持ちと付き合うとかしかないよね。そうじゃなきゃ、釣り合いがとれない」
楓さんは苦笑いしながら言う。
「厄介事に巻き込まれるのは嫌なんで。同じように叶わない恋をしている人ならいいかなと思ったんですけど、そんな都合よくいないですし」
僕がそう言うと、ウイスキーグラスを持った楓さんがむせた。
「って……いましたね、ここに。楓さんか……。悪くないな。僕じゃ恋愛対象外なんでしたっけ」
僕は動揺する楓さんが面白くて、グラスを彼女の手の上から握った。
「え? ちょっと待った。葉くん、寝に来たんでしょ。早く寝なよ。酔っているんじゃないの?」
「酔ってるってほど酔っていないですけど。その方が楓さんが罪悪感がないなら、そういうことにしますよ。僕と付き合ってみませんか」
「葉くん、そういうんじゃないって言ってたじゃない。眠れないっていうから、心配して連れてきたのに。なんでそんないいこと思いついたみたいに言うわけ」
呆れたように言いながらも、完全に目が泳いじゃっている楓さんからウイスキーを取り上げテーブルの上に置いてから、僕はもう一度彼女の手を掴み両手で包むように握り直した。
最初のコメントを投稿しよう!