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彼女――楓アキさんは、僕がよく演奏させてもらっているジャズライブハウスLazyBirdのサブマスターだ。
LazyBirdは住宅地の中にポツンとある、倉庫を改造したような見た目のライブハウスで、地元の大学生バンドのライブから海外の有名ジャズプレイヤーを呼んでのライブまで、幅広いジャズの演奏が行われる店。
マスターの芦住さんは元アルトサックスプレイヤーのひげもじゃのおじさんだけど、ジャズへの造詣が深く、若手を多く育ててきたこともあって、多くのジャズプレイヤーからズミさんと呼ばれ慕われている。
小さい頃から習っていたクラシックのトランペットからジャズに転向したばかりだった高校生の頃、店の常連で音楽家でもある父親に連れられ、僕は初めてLazyBirdに行った。もちろん客として。
その後、父親のコネなんかも使いつつ、たくさんのバンドでフロントマンとして修行させてもらえたのは、LazyBirdという店と僕のやる気を買ってくれた芦住さんがいたからだ。
高校卒業後、渡米した僕は、つい最近までジャズの勉強のためにボストンの音大に留学していた。
卒業後はニューヨークに半年ほどいて、帰ってきた今は、LazyBirdや地元の店を中心に、向こうで知り合ったミュージシャンがいる関東のバンドなんかにも、ちょこちょこ参加させてもらっている。
掛けだしではあるけど、一応プロトランペッターとしてのスタートを切った形だ。若手の中では、それなりに注目されているという自負はある。
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