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「……そうだって言ったら笑う? だって、葉くんみたいな若い子に手を出したなんて知られたら、ますますマスターから遠ざかりそうだもの」
「楓さんって正直ですね。僕はそういうの嫌いじゃないです。でも、たしかに僕も、あの人には知られたくないな」
「花名さんに?」
「いや、先生にですよ。花名は知ったって何とも思わないだろうけど、先生は僕が他の人と関係があると知ったら、絶対安心するじゃないですか。だから、知られたくないです。お互い誰にも言わないことにしたらいいんじゃないですか?」
「葉くんなら、私じゃなくてももっといい人がいるってば」
楓さんは戸惑いの表情を浮かべて、僕から逃げるようにテーブルから身体を遠ざけた。
「その話はさっきしたじゃないですか。いないです。楓さんが嫌なら、辞めなきゃと思いましたけど、別に嫌なわけじゃないんですよね。ただLazyBirdに近すぎる僕じゃ、そのうちマスターにバレるリスクが大きいんじゃないかと逃げ腰になっているだけで」
「そんなこと言って、あとで後悔すると思う」
「しないですよ。だってこれって、僕と楓さんが求めている関係ですよね。するわけがないです」
「葉くん……本気なの?」
手を伸ばして、もう一度楓さんの手首を握ると、彼女の瞳が忙しなく動き出す。
「本気ですよ。僕はもう結構切羽詰まっているので。楓さんは違うんですか?」
「そんな捨て猫みたいな目で見られると困る」
楓さんは答えずに、僕から目をそらした。
「じゃあ見ないです。僕が目を瞑るので、十数えるうちに僕を受け入れるか決めてください。ダメだったら、諦めて歩いて帰りますから」
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