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眠れない日々
僕が花名のことを諦めたと伝えたあとから、楓さんは僕と距離を取ろうとするみたいに、以前より突き放す言い方をするようになった。
LazyBirdに顔を出して家に行ってもいいかと尋ねても、店が忙しいからとか、疲れているからと言って断られることも多くて。
僕の方は花名と一切会わなくなったこともあって、楓さんといればいつかは花名のことを忘れられるんじゃないかと思い始めていた。
それだけに、これ以上本気にならないで欲しいという楓さんの気持ちを無視して、距離感を誤ってしまうのが怖かった。近づき過ぎれば、楓さんが僕との関係を断ち切ろうとするんじゃないかと思えて。
僕は意識的にLazyBirdに行かないようにしていた。会わなければ、楓さんは僕のことなんて考えることもないだろうから、決定的な言葉を投げかけられることもないだろうし。
花名を想い続けるために楓さんを好きになったのに、僕はまた自分の気持ちを押し殺さなければいけなくなっていた。
楓さんが初めに言っていたように、こんな関係は辞めておくべきだったのかもしれないと、弱気になってしまうこともある。
それでも楓さんとの関係を保つために、また他の誰かを好きになるなんて馬鹿なことはしたくなかった。そもそもが僕と楓さんは不誠実な関係なんだから裏切るというのとも違うとは思うけど、楓さんがいいと言ったとしても、僕自身が楓さんの身代わりを誰かにして欲しいとは思えなかったからだ。
楓さんがマスターにフラれてしまえばいいのにと思ってしまったことさえ何度かある。こういう関係を望んだのは僕なんだから、身勝手な話だけど。
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