僕らの関係

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 僕が初めてLazyBirdを訪れた時にも、帰国して挨拶に来た時にも楓さんは店にいた。  大学時代からバイトを始め、そのまま働き続けて唯一の社員になったという楓さんは、芦住マスターの片腕とも言える存在だから、ほとんど毎日店にいる。  彼女は短くなった煙草をひと吸いして、灰皿の上で揉み消した。 「口寂しいなら、今は煙草吸うより簡単に解消できる方法があるけど」 「別に口寂しくなんて」  僕はボソボソ喋る彼女の手を強引に引き寄せ、唇を塞いだ。形ばかりの抵抗をしようとした楓さんから力が抜けるのは、あっという間だ。  舌で彼女の唇をこじ開け中に入ると、口の中も煙草の味がした。マスターと同じ、チョコレート味の煙草。  芦住マスターはかなりのヘビースモーカーだ。「店で一緒にいる時間が長いから吸った方が楽だったんだよね」と楓さんは吸い始めた頃、言い訳のように言っていた。だけど、本当の理由はもっと単純だと僕は思う。  マスターの吸う煙草の味を知りたかったからなんじゃないかって。そうでなきゃ、身近な店では売っていない珍しい種類のタバコなんてわざわざ吸わないだろう。 「楓さん、もう一回してもいい?」  着けたばかりの下着の肩紐に手をかけると、「やだ」と言って楓さんは立ち上がり、猫のようにするりと抜け出ていってしまう。 「葉くんもなんか食べる?」 「作ってくれるのなら」
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