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「その人、ずっとマスターが連絡取れないことを心配していた人だから、不安もあったけど、マスターに会ってきて欲しくて引き受けたんだ。言葉が通じないのが心配だったらしくて、相談したら通訳として絵莉さんが一緒に行ってくれることになったみたいで。それで、絵莉さんからお土産は何がいいって訊かれただけ」
絵莉って人は、楓さんがマスターを好きなことを知らないんだな。当然なのかもしれない。楓さんは、普段そんな素振りをまったく見せないから。
「ふーん。絵莉さんって人、いくつぐらいなの?」
「いくつかな……。多分アラフォーくらい。絵莉さんはマスターのこと、気に入っていると思う。マスターもまんざらでもない感じで」
「まあ、そうでもなきゃふたりで海外旅行になんていかないだろうね」
僕がそう言うと、楓さんはさらに落ち込んだ表情になってしまった。
「そうだよね……」
「そんなに落ち込むなら、やっぱり嫌だって言えば? 楓さんがいなかったら、マスター休みなんか取れないんでしょ」
「そんなこと言えるわけがないよ。マスターは私を信頼して店を任せようとしてくれているんだから。それに、私はマスターのなんでもないし、邪魔をするなんて」
楓さんの泣きそうな顔を見ていたら、これ以上答えを引き延ばしても無意味なんだろうと思えてきた。彼女の目に僕は映っていない。
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