眠れない日々

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「僕にいるなら、楓さんにだってたくさんいるでしょ」 「そんなはずないでしょ。私もう30なんだよ。選べるような立場じゃないのに、葉くんみたいな若い子に本気になって、捨てられるのはキツイの」  自虐的な笑みを浮かべながら楓さんは言った。 「なんで僕が捨てる前提なんだよ! そうやって突き放して捨てようとしているのは、楓さんの方なくせに」  つい口調がきつくなった。なんで信じてくれないのかなんて、僕が最初に不誠実な関係を持ちかけたからだってわかっているのに。自分のせいだ。ちゃんと花名に対する想いにケリをつけてから先に進むべきだった。だけど、できるならしていたんだよな。僕も楓さんも、心が限界だった。そうじゃなければ、僕らの関係は始まらなかったんだから。 「そう。だって、私どうしようもなく愚かだから。ごちゃごちゃ考えていたくせに、葉くんの気持ちを信じたくなって、次に葉くんに会えた時、自分から関係を進めてみようなんて思ってたくらいには」 「……それほんと?」  楓さんが僕に向き合おうとしてくれていたなんて、考えもしていなかった。  楓さんはギュッと眉を寄せながら頷いた。 「なのに、マスターに恋人ができたと知っただけで、頭の中が真っ白になって、葉くんを家に呼んだことすら忘れてた。最低だよね。始まる前からこんなに揺れているんじゃ、葉くんと一緒にいることなんてできっこ」  僕は楓さんの言葉を最後まで聞く前に、彼女を腕の中に閉じ込めた。甘い煙草の残り香が髪に付いている。 「いい。揺れ動いたっていいから、僕のこと好きになってよ。ちゃんと付き合おう。恋人として」  
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