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「葉くん、それ本気で言ってる? 私の話、聞いてたんだよね。葉くんのことを忘れていたって言ったんだよ」
抵抗するように楓さんは僕の胸を押そうとする。でも、僕は腕を緩めなかった。そうでもしないと楓さんは逃げてしまいそうだから。
「聞いてた。ちょっと酷いなとは思うけど、楓さんの気持ちは分かるからいいよ。それより、楓さんが僕との関係を変えようとしてくれていたのが嬉しいから」
「葉くんは良くても、私が自分のこと信じられない。私はこれからも毎日仕事でマスターに会うんだよ。またこうやって落ち込んで、きっと葉くんを傷つける。こんな状態で恋人になっていいなんて思えないよ」
「僕はマスターのことを好きな楓さんを好きになったんだから、それも受け入れるよ」
そんなの無理だというように、楓さんは僕の腕の中で、頭を左右に揺らした。
「葉くんだって」
「僕が何?」
「また花名さんに会うことがあったら、私となんて本気で付き合うんじゃなかったって思うかもしれないでしょ。自分勝手なのはわかっているけど、私は本当に好きになっちゃったら、後悔している葉くんを見るのが耐えられなくなると思う」
そうなるくらいに楓さんが僕のことを好きになってくれたらいいのになんて、思ったらいけないんだろうな。
「楓さん。ニューヨークとここ、どれだけ離れていると思ってるの。もう僕は留学も終えたし、ニューヨークに行く用事もないんだから、そんな心配しなくてももう花名に会うことなんてないよ」
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