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「ん? 知らないか? 園原さんがリーダーで、ドラムが北岡聡さんで、ピアノが早川冬吾のトリオをメインに、色々サイドメンが加わった現代ジャズ系のバンド」
「あ、いえ、知っています」
まさか先生の参加しているバンドの名前が出てくるとはな。一瞬、花名の顔がチラついて僕はすぐに頭の中から追い出した。
「早川がいきなりパリに戻ったとかで数年前から活動休止中だったらしいけど、ピアニストはどうなったんだろうな。俺、あいつとは学生時代に一緒にバンドを組んでいたんだけどさ、義理人情に薄いし、他人に興味なさすぎるからトラブルになることも多かったんだよ。しかも、色々理由はあったみたいだけど、失踪したみたいに何年も消えちゃって。だから復帰して、園原さんとバンドを組んだと知った時はびっくりしたんだよな。あいつ本当にやっていけるのかよって」
茅野さんは学生当時の早川先生の話をいくつかしてくれたけど、どれもよく一緒にバンドなんか組んでいたなというような話ばかりだった。それなのに、茅野さんはなぜか楽しそうに先生の話をしている。
「なんで茅野さんは、そんな人と一緒にバンドなんて組んだんですか?」
「ま、単純な話だ。俺はさ、あいつのピアノが好きなんだよ。あいつ以上に魅力のあるピアノを弾くやつなんて、そうそういないだろ。ズミさんの話だと、復帰してからは随分丸くなったって話だったのに、またもや失踪したらしいじゃん。園原さんだって、呆れてんじゃないか? ほんと、才能を無駄にする奴だよな、あいつは」
多分茅野さんは、先生のことが嫌いじゃないんだろうなと思った。
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