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下着姿の楓さんは早速冷蔵庫を開けて、中に入っているものを確認している。冷蔵庫の明かりが、薄暗いキッチンと下着姿の彼女を照らす。
「ダメだ。ろくな食材がない。買い物に行かなきゃ」
僕も立ち上がり、まだ冷蔵庫とにらめっこしている彼女を後ろから抱きしめ、反対の手で冷蔵庫のドアを閉めた。
「ちょっと」
「やっぱり何もいらない。楓さん食べるから」
「私、食べ物じゃないから」
首の後ろにキスを落とし、啄むように彼女の身体を味わう。
「もう一回だけ」
彼女は女らしさを強調するような服は着ない。大体スリムなジーンズに男物のTシャツかパーカーを着ている。今着けている下着もモノトーンの飾りのないシンプルなものだ。
胸も含め全体的に薄い身体と、無駄に伸びすぎた身長にコンプレックスがあるんだと、前にボソリと言っていた。女の子っぽい可愛いものは私には似合わないんだって。
確かに楓さんは、可愛いというよりもかっこいい女性だと思う。本人が思っているよりずっと、可愛いところもあるけど。
無理矢理こっちを向かせキスをすると、呆れた顔をしつつも、楓さんはそれに応えてくれた。
今日はずっとビックバンドジャズが流れている。ウディ・ハーマン楽団のEarly Autumn。テナーサックスのスタン・ゲッツをフューチャーした美しい旋律のまったりとしたバラードだ。
テナーサックス奏者でもある楓さんは、普段からサックスがメインになっている曲を聴いていることが多い。最近は、サックスを吹いている時間なんて全然ないと、愚痴をこぼしていたけど。
「キッチンでこのままする? それともベッドに運ぼうか」
そう言いながらも、僕は彼女の身体を冷蔵庫に押し付ける。
「運べるわけないでしょ。こんなにデカい女。自分で歩くからいい」
「残念ながら楓さんがハイヒールの靴を履いたって僕の方が大きい。運べないなんてことはないと思うけどね」
楓さんは170cmはあるらしい。(いくつあるのかは絶対に言おうとしない)
僕も背は高い方だから楓さんの背の高さが気になったことはないのに、彼女は気になるらしい。
「無理だって」
「できないって言われると、やりたくなるよね」
「ちょっと!」
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