時計のない部屋で

カフェで待ち合わせ【ニューヨーク】

　ワシントンスクエア・パークで、時間を潰すために木陰から出てきてチョロチョロ走り回っているリスを眺めていた僕は、スマートフォンのメッセージを確認してから公園の外に向かって歩き出した。

　園原さんが待ち合わせ場所に指定したのは、スタジオではなく、グリニッジヴィレッジにある珈琲ショップだった。

　一度、こっちの友人たちと一緒にこの公園の中で演奏したことがある。大道芸をやっていたり、ミュージシャンがそこら辺で演奏していたりと、オープンな雰囲気の公園だ。

　地図アプリの指示の通り歩いていくと、深緑の柱が目立つレンガ造りの建物が見えた。足を止め、建物を取り囲むように張り巡らされた柵の向こう側を見てみたけど、店の前に日本人女性は立っていないようだ。

　多分、中にいるんだろうな。

　前の予定が延びてしまったらしく、待ち合わせ場所には園原さんの代理の樫野さんという女性が来るという連絡が少し前に入っていた。彼自身は後で合流するらしい。

　園原さんと1対1だと思って結構緊張していたから、ワンクッション挟めて良かったのかもしれない。落ち着いて話したいし。

　正面の入り口から入り、バリスタに軽く挨拶をして中にいる客と合流することを伝えてから、それらしい女性の姿を探すことにした。

　向こうから声をかけられるかと思っていたけど一向に誰も現れない。いくつくらいの人なのか訊いておけば良かった。

　まだ来ていないんだろうか。

　困ったなと思いながらも店内を見回していたら、「相馬くん！」と僕の名前を呼ぶ聞き覚えのある声がして、ドクンと大きく心臓が飛び跳ねた。