カフェで待ち合わせ【ニューヨーク】

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 樫野さんを挟みながら話を続けていたら、花名が急に僕の珈琲を買ってくると言い出した。今までそんなふうに僕に気を遣ったことなんて一度もなかったのに。どうやら、この場から逃げ出したいくらい、僕との関係がばれるのが嫌らしい。  それで、どっちが買ってくるか言い合っていたら、樫野さんが気を遣って、自分が買ってくると言い出してしまった。 「いえ。自分で買ってくるからいいですよ。多分彼女、僕とふたりきりになりたくないと思うので」 「え、どうして? 花名ちゃん、緊張でもするの」 「あの……えっと、そういうわけじゃないんですけど」  しどろもどろになった花名はラテの入ったカップを、クルクルと手の中で回している。  どうしても言いたくないらしい。そんなに隠されるとなんだかな……。 「僕、彼女にフラれているんですよ」 「ちょっと、相馬くん!」  花名は口に近づけようとしていたラテを慌ててテーブルに戻し、非難の声をあげた。 「ああ、そうなんですか。フラれ……って、ええええーーー! 花名ちゃんに?」  樫野さんは大きな声を出して、わざとらしいほどに目を見開いている。オーバーリアクションな人だな。疲れないんだろうか。 「ええ、そうです。だから彼女僕に冷たいんです。今はただのライバルなんですけどね。ライバルと言っても、僕は花名にも誰にも負けませんけど」 「フラれているのに、強気! 花名ちゃんだって、すごいんですからね! 負けないんですから」  なぜか樫野さんは張り合うように言ってくる。これが素なのか。ちょっと子どもっぽいというか変わった人なんだな、樫野さんって。  彼女も何か楽器の演奏者なんだろうか。つけ爪をしているところからして楽器を演奏していそうにはないから、花名と同じボーカルとかなのかもしれない。 「私は、すごくなんて……」 「そんなことないよ! 園ちゃんはもう今、花名ちゃんの歌に夢中なんだから」  え、園原さんが花名の歌に夢中って、花名もボーカルとしてOVERFLOWに参加するってことなのか?   まだこれからも花名との接点があるのかもしれないと思うと、また胸の中がざわつき始めてしまう。  大丈夫だ。前のアルバムと同じような作りだとすれば、ボーカル曲は全曲異なるシンガーが歌うはずだから、僕が花名と一緒に演奏する可能性は少ない。      
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