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肩に担ぐように彼女を持ち上げ、ベッドまで運ぶ間、楓さんはじたばたしていた。確かに軽くはないけど、運べないわけじゃない。
「もー、下ろしてってば」
ベッドに下ろし、そのまま圧し掛かって、今にも文句を言いそうな彼女の口を塞ぐことにした。
僕たちはこうやってたまに会っても、どこへも出かけない。デートなんてしたこともないし、僕の部屋に楓さんが来たこともない。
彼女みたいなことはしたくないと、楓さんが言うから。
着けたばかりの下着を取り去り、控えめな胸に顔を埋めようとすると、ボソッと頭の上の方で楓さんが何か呟いた。
「何?」
「葉くん、元気すぎるって言ったの」
「急に年寄りみたいなこと言うね。楓さん、まだ20代でしょ」
「昨日で30」
耳を疑った。
「え、昨日誕生日だったの? なんでそういうこと言わないんだよ」
「だって、葉くん昨日まで東京にいたでしょ」
「そうだけど、電話くらいするのにさ」
「別に電話なんて欲しくない」
僕に組み敷かれている癖に、楓さんは可愛くないことしか言わない。
「……とにかく、誕生日おめでとう。昨日も仕事?」
「そうだけど」
「マスターには、誕生日だって言ったの?」
楓さんはLazyBirdのマスターにずっと恋をしている。アプローチすらしないから、マスターはまったく気づいていないみたいだけど。
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