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「言わなくても、毎年バースデープレート用意してくれるから」
「ああ、そう。嬉しそうに言っちゃって。僕からの電話は要らないって言った癖に」
「バイトにも全員するから、別に私が特別なわけじゃないんだって。それより、葉くんは好きでもない人に嫉妬なんかするんだ」
クスッと笑いながら言う彼女に、ムッとしてしまう。
「好きだよ。好きじゃなかったらこんなことしないし、帰って来るたびに会ったりしない。楓さんは違うの?」
「今は好き……かな。嫉妬する葉くん可愛いし」
ズルい答えを返した楓さんは、下から手を伸ばして僕を引き寄せる。
マスターを好きな癖に僕とこういうことをする楓さんを、責めることはできない。
僕にもずっと好きな人がいるから。
お互いに知りながら、ずるずるとこんな関係をもう二年近くも続けている。
僕は大学時代、ほとんど帰国しなかったから、年に一度か二度、遮光カーテンの閉まった時計もない部屋で、僕らは抱き合って過ごした。
満たされない気持ちを埋めるかのように。
もし僕が片思いをし続けている花名の存在がなかったら、楓さんのことを心から好きだったんじゃないかと思うこともある。だけど花名はいなくならないし、何度諦めようとしても僕の気持ちは戻ってしまう。
花名の存在がなかったとしても、楓さんはマスターのことが好きなんだから、もっと虚しい気持ちになるだけなのかもしれないけど。
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