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指で、唇で、舌で、僕は彼女に触れる。楓さんの冷たい肌の温度を上げる為に。
少しずつ体温が上がってくると、楓さんはやっとひねくれたことを言わなくなる。僕はそんな時の、物欲しそうな目で僕を見る彼女が好きだ。
可愛いなんていうと多分怒られるから口にはしないけど、やっぱり可愛いと思う。
顔を近づけると楓さんから僕の頭を引き寄せる。重なっただけでは不満足だとでも言うように、彼女の舌は僕の舌を絡めとって離さない。
「葉くん……」
舌を離すと、彼女は僕の名前と一緒に熱い吐息を零した。
ずっとこの顔を見ていたいと思う。僕のことしか考えていない楓さんの顔を。
「好きだって言ってよ」
「……好き」
「うん。僕も」
僕は溶けた彼女の中にゆっくりと入り込んでいく。
僕の背中にしがみつくように腕を回す楓さんを愛おしく思う。
もっと楓さんから思考力を奪ってしまいたい。
彼女がマスターのことを考えなくなるように。僕自身も、楓さんのことしか考えられなくなるくらいに。
今だけはお互いに一番になれる時間だから。
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