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ワイアット・ヒートの中止が伝えられてから二週が経った。
理由は単純に、「遊星接近の影響により」と。当局からは伝えられたのだが、具体的にどのような影響があってなぜ飛べないかについては、何らの説明も、与えられなかった。
二週の間に、ザークは二度だけ飛んだ。あくまで調整飛行、距離も時間も、ごく短いものだ。ザークは日々に倦んでいた。先週、制度上の主君、あるいは雇い主にあたるクルロワ辺境伯からは公式な伯爵辞令があった。その書面によれば――
飛行競技そのものは無期限に中断とする。が、伯爵の私兵たる飛行兵――つまりザークたちのことだ――に対しては、これまで通り、毎週の給付金を支給する。そういうことが、やや難しい、公式の文言で書かれていた。
飛ばなくとも金が入る。働かなくとも、暮らしていける。そういうことが嬉しい人間もけして少なくはない。が、ザークはそうではなかった。自分の翼が、不当に取り上げられたような―― 今まで鳥だった自分が、今では地を這うケモノ以下に落ちたような。そういう、あせりにも似た、なんとも焦げ付いた、不透明な感情が全身を覆っていた。
飛ぶために、この地に来たのだ。
なのに、これでは――
飼い殺し、という言葉がまっさきに頭に浮かんだ。
まさにそれだと、ザークはひとりで頷いている。
朝、目覚めると重力が、身に染みる。飛べない体を、さらにことさら重くする。
まったく。これじゃいったい、何のためにここまで来たのか――
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