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「ここだ」
不意に開けた場所に出た。ザークがそこで足を止めた。
緑の蔦に覆われた高い壁が、広く四方を囲んでいる。
かつての広場の廃墟、という感じだろうか。
古い石畳の地面の半分ほどが、丈の低い緑の草で覆われている。
「ここが、景色の良い、場所?」
リーエヒルデが見回す。たしかに緑濃く、静かで、それなりに古い調和のある風景と、言えなくもない。が、ことさら人に案内するほどの良い眺めだろうか―― わずかに細められた娘の瞳は、そう、語っているようだ。
「いや。ここはまだ入口だ。ここから少し、降りる」
ザークは娘の方を振り向きもせず、古い広場の中央、そこから地下に向けて造られた幅の広い下り階段を、先に立って降りはじめた。娘もとりあえず、あとに続く。
十五段ほどで階段は終わり、そのあとは傾斜の緩やかな下りの通路となった。どんどん地下へと、深く、もぐっていくようだ。地下通路の天井はとても高く、一定の間隔で設けられた正方形の天窓から、白々とした外の光が降っている。
やがて、緩い下りの通路は終わる。
そこに大きな空間がひらけていた。
「ここは―― いったい――」
その場所の思いがけない明るさに、
娘は思わず目を細める。
そしてここは――
都市の地下に造られた空間としては、とても広い。幅も奥行きも、相当なものだ。
が、その構造として、何より特殊なのは――
その、巨大な直方体の地下広間の、あちら側。
ここから見て奥側には、あるべき壁が、ない。
そこに壁はなく――
そのかわり、あるのは、ひたすらに青い、一点の曇りもない空だった。
「むかしのドックの跡だ。ここは整備場と滑走路を兼ねていたらしい」
ザークが娘のそばに立ち、しずかな声で言った。
そしてここには、いくつもの船―― 飛空艇が―― どれもこれも、古いものだが――
だだっぴろい地下広間の石の床の上に、そのまま、無造作に放置されている。
船の多くは壊れ、錆びもひどく、あとはただスクラップを待つのみという感じではあった。が、中には、少し手を加えれば、今すぐにでも飛べそうなものも、いくつか混じっている。
二人は横にならんで、ゆっくりとした足取りで―― その、廃船たちのあいだを縫って、ゆっくりと、ゆっくりと進んだ。ひとり乗りの小飛空艇もあれば、数十人のクルーが乗りこめる、中型や大型のものもあった。ただ、どれもこれも、見るからに年式が古い。いまも現役で飛んでいる機種は、ここにはどうやら、見当たらない。
「全部でたぶん、二百はある、と思う。おれもまあ、いちいち全部を、正確に数えてみたわけではないが」
男が言って、いま右側に横たわる、ひときわ年式の古い、赤錆びた機体に手を当てる。手が触れたところから、ポロポロと錆びた鉄がこぼれ落ちた。
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