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「いや、静まれ。続きを聴くがよい。わかっているぞ。あと双月と。そのように、言われたのだろう? 多くの国々は、市民向けに、双月と。そう、説明をしているようだ。諸君らも自然、各方面から、その、双月の期日を耳にした。そうだろう?」
黒いフードの人物が、ホールの隅まで見わたした。
ざわめきが止んだ。そこに静寂が下りる。
「だが、敢えて言おう。その情報は誤りだ。正しくは七日。双月というのは、混乱を最小限にとどめたい、各国の王たちの虚言に過ぎない。が、わたしが敢えてここで言う。七日だ。それが正しい時間。それだけしか、われらには残っていない。だから言う。力を、貸してほしい。わたしは止めたい。回避したい。このイウレアのすべてが、あの、忌むべき星によって粉々に砕け散る、そのような事態を。変えたい。未来を。この星を―― まったく呪わしきこの星の運命を、また別の方へ、導きたい。いや、」
その人物が、小さくひとつ咳をした。
何かひとりで、また、小さく笑っているようだ。
だが、その笑いの意図は、そこに集まる大勢の者には、まだ、よく、理解できない。
「いや、すまない。柄にもない、大言を吐いたな。少しは貴族らしく、格調をもって話すべきかと。少し演技をしてみた。が、よそう。つまらんことだ。どうせこの星は、何もしなければあと七日で終わる。今ここで、格調ある大貴族を演じて見せたところで詮無きこと。以後は言葉に気をつけよう。よい。ありのままを話す。だから皆、ありのままを聴け」
その人物が――
ふわりと、フードを、左手で払った。
赤。
赤の髪が、あふれる。
こぼれおちた、乱れた長い赤の髪が――
フードの外に、ばさりと、はだけ出た。
それは炎よりも明るい、見とれるような、赤の髪である。
そしてその顔は――
美しい、と。誰もが心に思っただろう。
きわめて端正な、赤い色の眉と瞳、高く切り立つ鼻、
そしてどこか世をすねたように、わずかに歪められた、完璧な造形の、薄い唇。
ザークもじっさい、息をのんだが――
こと、彼に関して言えば、その女の美しさに心打たれたわけでは、なかった。
ザークがおどろいたのは――
それがとても、似ていたからだ。
その、今現在の、自分の相棒に。
リーエヒルデ。
飛ぶために自分と組む、まさに今となりに立つ、その、魔法砲手の娘と。髪の色こそ違う。瞳の色こそ違っている。が、その、顔の造形は―― あまりにもよく、似ており――
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