白銀のツバメは、ただ北を指して飛ぶ

27/82
前へ
/82ページ
次へ
「質問!」  いくつもの手が上がった。  最初の者が、指名も待たずに高らかに声を上げる。 「本当なのか! 都市そのものを、譲る、などと――」 「本当だ。欲しければ、いくつでも誓約書を書こう。わたしの公印を、数百の文にすべて、諸君らの目の前でことごとく押し、かつ、わたしの血をもって、そのすべてに、かさねて署名してもよい。ふふ、ま、それは冗談。とにかく本気だ。証人となるのは、ここにいる諸君、すべて。また、わたしの今この意向は、明日以降、すべての都市民に公式に伝えられる。今語ったすべてに、いっさいの嘘はない」 「質問!」 「よい。言え。何が知りたい?」 「ギドの奈落の、先。だが、そこに一体、何がある? なぜ、そこまで、その場所に?」 「良い質問だ。そうだな、それをここで今、言うべきだろう。」  女は一瞬、視線を高く―― どこか、大ホールの天井、魔法のかがり火が赤々と燃える、大天上の方を。それから視線を戻し、気だるい声で、続けた。 「極北のフロンティアの奥ふかく、人間をよせつけない竜族の地―― 古代キルトの言葉で言う所の、クシュルバルト。また、古期イリア語で言う、テラ・インコグニタ。その奥深くに、輝く結晶におおわれた未踏の大地があると言う。その、輝く結晶―― それこそが、いま、われら人類の救い主となる、その可能性を秘めた、未知の鉱石である。未知の、と。わたしは今言ったが。まったくその組成が、知られていないわけではない。かなりの精度で、推定はされている。数十人の、最高級の学者らがあつまり、そこで出した、確度の高い推定だ。われらは仮に、その結晶を、『イオ・クリスタル』と名づけた。  その大地は―― テラ・インコグニタの大部分は、その、イオ・クリスタルによって占められる。そしてそれは、地表部だけではなく―― 少なく見積もって、深さ、64ウォルの深度。あるいはそれより深い領域まで。つまり地下深くまで、その、イオ・クリスタルが構成している。つまり、大地そのものが、それで成っているのだ。」 「そして次に言う、これこそが、最も重要な部分。これが、わたしがここにすべてを賭ける、その根拠となる。つまり――」
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加