白銀のツバメは、ただ北を指して飛ぶ

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「その、物質は。イオ・クリスタルは。あくまで推定であるが―― おそらくそれは、かなりの程度に、可燃性であると。つまり。ある一定以上の温度に、一定時間さらされると、それは必ず、火を、発する。その熱は非常に高い。そしてその熱は、さらに別のクリスタルへと次々に伝播され――」 「要するに、だ。いちど火がつくと、そこは、すべてが、炎と化すだろう。その大地、すべてが、だ。その推定総熱量は、四百兆エルモを、さらに、その、四つの桁以上をもって超えていく。人類は未だ、それを測りうる数字単位を持たない。ともかくすさまじい火力だ。われらはしたがって、そこに、火を。ともしたい。要は、吹き飛ばしたいのだな。その地のすべてを。すべて、残らず。地の底の一点に至るまで」  一瞬、ホールの中が静まった。  温度が、まるで、下がったように――  それまでのざわめきが、一気に、消えた。 「そんな、大それた―― 破壊を―― それが、だが、何になる?」    誰かがかろうじて、訊いた。誰かが訊かねばならぬ、  その言葉を。誰かが代わりに、つぶやいた。 「よいか、考えてみろ。忘れたか? あくまで念頭にあるのは、あの星のことだ。エルグだ。目的はあの、赤い遊星の衝突から、いかにして、この惑星を護るのか。話題はそこであったろう?」 「もし仮に―― 正直、とても確度の低い仮定であるので、あくまで希望の範疇に過ぎないのだが―― もし仮に、誰かが一番乗りで、その地を人の火力でもって、吹き飛ばすことが。仮にもし、可能であったとする。その場合に、何が起こるのか?」 「地の底のレベルから、高い熱でもって一瞬によって炎と化した、その熱量は――」 「この惑星、イウレアを、極北の部分から、それ以外へと、」 「非凡な力で持って、押し下げる。あるいは、押し上げるのか? 今一つわたしは、惑星科学の素養がない。厳密な科学の言葉ではないかもしれぬが、そこは許せ。ま、ともかく。その力が、一気に、一瞬にして、この惑星の軌道を変える」  軌道を……?  ざわめきが起こった。  誰もが、未だに、その、語られる言葉の真意を、  まだひとつ、掴みかねている。軌道? 軌道とは何だ?
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