プロローグ:愚弟の理想

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 僕には、友達がいない。  流川(るせん)本家の当主候補として生まれた僕は、生まれてからの十数年間、来るべき戦いのため、母さんに日夜修行に付き合わされていた。  兄さんには戦いの才能があった。僕より何倍もの霊力を持ち、何倍もの体力を持ち、何倍もの力があった。もう幼少期の時点で、身体能力が人類の種族的限界を突破しつつあったほどに。  その点、僕は戦いの才能には恵まれなかった。常勝無敗の戦闘民族の一人として生まれたのに、僕には戦場に立ち、戦う力がなかったのだ。  修行だって一生懸命こなした。でも、どう足掻いても兄さんのように強くはなれなかった。  でも、そんな僕にも才能があった。それは本家の者には似つかわしくない``発明``の才能だった。  僕は研究が好きだった。自分の力で、この世にまだ存在しない全く新しい何かを創り出す。僕には、それができるだけの能力があった。  無論、流川(るせん)本家は戦場に立ち、勇猛果敢に戦う民族。その才能は、漏れなく来るべき戦いのために活かされる。  僕の才能は、まず分家派に高く評価された。かつて流川(るせん)本家の専属技工士だった流川(るせん)久々(ひさひさ)おじさんによって、僕が遊び半分に書いた論文が評価されたのが全ての始まりだった。  その論文は、世界の魔法科学技術を一新するほどの凄まじいものだった。流川(るせん)家の軍事力でさえも革新してしまうほどに。  この功績が、僕の人生を決定的なものにしたのだ。久々(ひさひさ)おじさんの下で粗方修行を終えた僕は、久々(ひさひさ)おじさんの跡を継ぎ、正式に流川(るせん)本家専属技工士の座を手に入れた。
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