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『……さん、兄さん!』
頭の奥から声が聞こえる。いや、今の俺に頭があるのか。
御玲がまるで大砲の砲弾みたく女アンドロイドに投げ飛ばされて、それに激情して体のリミッターを外した瞬間、一瞬で間合いを詰められたと思ったら視界が暗黒に閉ざされたところまでは覚えている。覚えているってことは、俺にはちゃんとした肉体があるってことなんだろうか。
視界が真っ暗になった瞬間、俺の意識というか自我というか、そういうのが闇の海の中を漂流している感覚はあった。
でも喋れないし手や足がある感覚もない。前も見えず音も聞こえず、何も無い虚ろな世界をただただ何も考えず泳ぎ続けていたわけだが、ようやく愚弟と思わしき声が脳裏―――と思われるところから聞こえたと思えば、闇の海から現れた光の渦に包み込まれていくのを感じ、目―――と思われるところを開けた。
「俺は……一体……?」
気がつけばコンクリが剥げ落ちた道路の上で、クソ間抜けに寝こけていた。まるで風邪でも引いたかのように怠く、起き上がると眩暈と吐き気が背中に鬱陶しく横たわってくる。
手や足があるかどうか、体がどうなっているのか確認する。どれもきちんと存在している。ケガなんて最初っからしてなかったみたく、傷一つない肌で全身が覆われていた。
「てか俺、裸じゃん!?」
立ち上がり、全身をくまなく見渡す。
体を粉々にされたのだから当然だが、このまま外をほっつき歩いていたら、ただの露出狂の変態だ。替えの服なんて持ってきていないし、霊力でなんとかならないだろうか。
ダメ元で今日着てきた服をイメージしてみる。そのイメージに体の中にある霊力を引き出して皮膚の上に膜を張るイメージを上乗せするとあら不思議。体から白い粒子がにじみ出て、今日着てきた服がみるみるうちに復元された。
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