第六十一夜 御船里恵

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第六十一夜 御船里恵

 みなさま、協力してくれるのですね。  詳しいことも話せないが、血を一滴もらえないか。そんなことで応じてくれるなど、ほんに気の良い方々で。  ふふ、そうして愛されてこそ黄泉(よみ)がえる甲斐(かい)もあろうというもの。西行(さいぎょう)法師が高野の奥に捨てた生き人形、果てにはどうなったものやら。人というのは身勝手なものです。  野ざらしの髑髏(しゃれこうべ)、釣って釣られて恩返し。犬に食われた骨が、あるいは骨を食った犬がどうなったかはさておきまして、戸隠(とがくし)の鬼と骨との(ゆかり)を探るとしましょうか。  他の誰にも語るでないぞ、語ればお主も腐れ死に。御船家口伝(みふねけくでん)を耳に入れます。御船龍樹嬢の祖母にして、御船利政校長の妻、御船里恵(みふね りえ)で御座います。 ……口伝(くでん)など、あやふやなもの。  御船家の祖先は、海の彼方(かなた)より船に乗りて来たるというのだよ。(とおと)い血筋であると言われ、もとは貴船家(きふねけ)じゃった。  でも、それは海に流された蛭子(ひるこ)であったかもしれんのじゃ。あるいは鬼を祖先とする鬼船家(きふねけ)か。  およそ千年の昔、御船家は鬼をよく使役し、この国を裏から支えておったともいう。  ある時、大掛かりな呪法を為すも目的を達することができず、都を追われたとされておる。その後、一族内での争いがあり、本家は断絶、ほそぼそと続く傍流に血が託された。  その争いでは数多くの者が亡くなり、鬼を使役すべき術師が鬼そのものと化したとも伝えられる。(あやま)ちを繰り返さぬよう、その骨を外法箱(げほうばこ)(まつ)ってある。  それも由緒書(ゆいしょが)きのようなものか。言葉に残されるのは出来事の影に過ぎんのじゃ。残りの骨は、どこにあるとも知れぬ鬼塚に、五体ばらばらに納められていると伝える。  口伝には、五つの塚を(まつ)り、決して粗略にしてはならんとある。怠れば、必ず災いあるべしと。しかし、長い時を経て、場所すらわからぬ塚を祀ることなどできようか。  できるのは、きちんと外法箱を祀り、教訓を伝えていくことのみ。もっとも、中身はともかく、外法箱自体は明治以後のものと聞く。  時の力はすさまじい。なにもかも曖昧模糊(あいまいもこ)としたものにしてしまう。なにが真実でなにが嘘か、誰にわかろう。  野ざらしの髑髏(しゃれこうべ)、果たして小町(こまち)五右衛門(ごえもん)か。忘れられた鬼塚は、どこでどうなっているのじゃろうか。
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