第十夜 七代目

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第十夜 七代目

 もう十日目ですね。どうして、そこまで温州蜜柑(うんしゅうみかん)のために動くのです。はぁ、妻の恩人であると。それにまた、巻き添えになった立花浩二らも救ってやりたいというのですか。  しかし、温州蜜柑は依代(よりしろ)であるクマの人形ごと千々(ちぢ)に引き裂かれ、立花浩二らも胸をひと突き、(しん)の臓を鬼にえぐり出されて死んだと聞きます。それをどうやって?  なるほど、心水教の七代目の力ですか。  三代目が(くだん)の娘と結ばれて、その力も得たのでしたね。腐敗すべき遺体をそのままに保ち、黄泉(よみ)がえらせようという魂胆(こんたん)か。それでも、どれほどの時がかかるか、それで果たして望むような形で黄泉(よみ)がえるかどうか、何の保証もありませんよ。  それでも続けるのですね。では、お望みのように致しましょう。今宵の語り手は、その七代目です。 ……わっちの名前は白里なり。  初代白里、二代目白糸、三代目白水、四代目白里、五代目白糸、六代目白水ときて、七代目白里で二回り。  代々受け継がれし、万病を癒す霊水に、四代目よりは言霊(ことだま)の力を得た。元は呪われた(くだん)の力であるという。  十七年前、若い女ばかりが(さら)われる事件が頻発したもの。(あやかし)仕業(しわざ)とみて、御霊(ごりょう)たる温州蜜柑(うんしゅうみかん)、古き式神の佳乃(よしの)の助力も得て(はら)ったが、多くの犠牲を出した。  すべてはわっちの力不足ゆえ。温州蜜柑はずたずたの皮袋にされ、佳乃は今生(こんじょう)から消し去られたのよ。護るべき市井(しせい)の者らも巻き添えにさせてしまった。  そのせめてもの罪滅ぼしに、高島承之助に力を貸してきた。伊勢の隠れ地に学び舎を建て、人からも(あやかし)からも見えぬように(じゅ)をかけて、そこで長い時をかけて黄泉(よみ)がえりを図ってきたのだ。  それを……。あの鬼め、形を失ってなお人を呪うか。佳乃(よしの)には申し訳なきことをした。まさか悲願である人として生まれ落ちていたとは。護ってやれなかったわっちを許してくれようか。  いままた鬼の気配がある。  鈴が壊れたなどと(たわ)けたことを。これは鬼の仕業であろう。確かめねばならぬ。三郎を呼ぶとしよう。  古き鬼よ、十七年前のようには行かぬ。その後、生まれ落ちた佳乃を囲いよって……。二度と、そのようなことはさせんぞ。
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