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第十三夜 御船利政
まだ十三夜か、はや十三夜か。
毎夜、毎夜、遠く市中より訪ね来られる貴方にとっては過ぎていく時は早いか遅いか、どちらなのでしょうか。
こちらの社ゆかりの物語は知っておられると思いますが、鬼はなぜ娘を喰らうのか。時折、ぼうっとそんなことを考えもします。何があろうと無慈悲に過ぎていく時は救いか否か。私もいまや喰われつつあるのか。
私だけではありません。貴方も知らず知らず鬼に喰われているのです。いつの間にか、気付かぬうちに少しずつ。
とまあ、そんなことを考えながらの十三夜。余計なことは打っちゃって、温州蜜柑の黄泉がえりを図るとしますね。それなくしては存在しえぬ物語もあるのですから。
さて、この先の物語です。御船龍樹と悠里の祖父、御船利政校長を喚ぶこととしましょう。十七年先に本当になるかどうか、それは誰にもわかりませんが。
……ほっほっほっ、まさか何も知らずに来ていたとは。あの警部さん、噛まれずに済んでよかったわい。
ちょっとぐらい噛んでやっても大丈夫だと聞いていたと告げたら、絶句しておったのう。
見知らぬ人間を噛むか噛まぬか。
外出許可を出すかどうかの最低ラインを越えたのは確かじゃ。とはいえ、噛まずに我慢したのと、そもそも噛もうとしないのとでは同じようでまた違うことでもある。
どうしたものかの。これで許可せなんだら久美嬢は怒るじゃろうな。やった、やったと無邪気に喜んでおったし。仕方ない。外へ出させてやろう。距離と時間と、少しずつのばして慣れさせていくのがよかろう。
天児がここへ来て、まだ一年経っておらんか。それを考えれば、ひとことも言葉を発せないとしても、格段に良くなってきたのは確かじゃ。
外出許可は出してやるとしよう。
ちょうど良いところに、立花浩二か。久美嬢と違って、まだちょいちょい噛まれるらしいが、甘噛みみたいなもんかの。
ふむ、もう妹から聞いたか。
そうさな、外出は許そう。ただし、自由にというわけではないぞ。まずはこちら側から外を見て慣れさせること。橋姫の力の届く範囲に留まること。短い時間から始めて、少しずつ長くしていくのじゃ。
決して焦るでない。無理をさせれば二度と外へ出ようとせぬやもしれん。いずれ、赤福本店で赤福氷を食べて帰ってくることができれば合格としよう。名付けて、ミッション赤福よ。
無事に行って帰って来れれば天児に真名を返そう。本来、おぬしと同い年くらいの娘だ。いつか、ともに学び舎で過ごせるとよいのう。
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