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第二夜 名坂和也
約束通り、今宵もお越しですね。
此処は亡者どもの吹き溜まり。騒めく声を鎮め、大人しくさせておくのが私の役目なのです。魂鎮めの歌は忘れてしまいましたので、変わりに物語を使うとしましょう。そこな皮袋は神水に晒しておきなさい。今宵の語り手は、ベテラン刑事の名坂殿で御座います。
……ひぐらしの鳴く夕暮れ時のことだ。
そいつはまあ凄惨というほかなかったな。長いこと現場で仕事をしてきて、そこそこいろんなものを見てきた。
だがあれは、あれはよくないものだった。
部屋には豪華な調度品や家具、彫刻や絵画も多数あった。そういったことには疎い私でも、これは素晴らしいものなのだろうと、そうわかるくらいには。
それらが砕け散り血に汚れ、腐った内臓や肉片に飾り立てられていた。それが起きてからすでに何日か経っていたのだろう。血溜まりであったはずの場所も乾いて固まって、その只中に、あの娘がぺたりと座り込んでいた。
恐ろしかったのは、物言わぬ死体とみえた娘が美しくしか見えなかったことだ。
美しさというものは健康的なものとそうでないものと二つに分かれる。あの娘は、そうでないものの極地で死に向かっていた。まさに失われんとする命がそこにあった。それなのに私には、血まみれになって生まれてくる赤子のように思えたよ。そこで生まれたのさ、きっと。もしかしたら二度目に。人を魅了する化け物として生を受けたのかもしれない。そうだ、私たちは血まみれで生まれてくる。
死とは乾いた骨だ。
九相図は腐乱する死体の醜さを描くというが本当にそうだろうか。私には、あるいは美しき白骨とも見えるのだが。
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