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第三十三夜 我孫子源蔵
邪を祓う以前に、物理的破壊力のあるものでしたね。かつて姉の有していた人ならざる力を継いだのでしょうか。また私の力も。
ふふ、なにやら口元が緩んでしまいます。
千年の昔には呪われた鬼の力として恐れられ、あるいは蔑まれ、忌避された私たちの力があの子の助けになるとすれば、これほど嬉しいこともありません。
それもこれも立花浩二との縁によるもの。かつての温州蜜柑と佳乃のことを思うと不思議の感がありますね。
いつか失われた記憶を取り戻すこともあるかどうか。私の前世は狐でありました。みなさまは如何です?
さて、今宵の語り手は我孫子源蔵殿です。小さな学び舎とはいえ、事務の一切を引き受けて、吹き飛んだ弓道場の修理に各種行事の手配まで、なかなかに忙しそうな方で御座います。
……やれやれ、やっと片付きました。
いったい何をどうすれば弓道場の壁が吹き飛ぶようなことになるのです。この学び舎では、なにが起きても不思議はありませんが、さすがの私も少々驚きました。
そろそろ恒例の持久走を準備しなければならないというのに。校長や教頭も今年は妙に力が入ってました。なにか普通ではない理由があるのだと思いますが、私にはよくわかりませんね。身体を限界まで駆使することが心を鍛えるとか、あるいは隠されている姿を映し出すとも言われてましたか。
まあ、私はただの事務のオジサンですから難しいことは考えなくて良いでしょう。神宮の森を抜ける道を確認しておきますか。県道とは名ばかりの危ない道ですからね。
ふむ、御船龍樹は今年も見学ですか。なんのかんのと理由をつけて絶対に走ろうとしませんな。意外と運動神経の良い娘さんなのに、しんどいことは嫌いなんですよね。いけませんね。健全なる精神は健全なる身体に宿る、というのも本来の趣旨とは異なりますけども。
二千年も昔から人は変わっていないのかもしれません。私が準備をしている各種行事も単なる目くらまし、パンとサーカスに他ならないのかもしれませんな。
さて、愚民は愚民なりに義務を果たさなければ。持久走後にゆっくり汗を流せるよう手配しておくとしましょう。
たしか、新しくできた銭湯が天然温泉で、きみの湯伊勢店と言いましたかね。
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