第五十七夜 天光丸

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第五十七夜 天光丸

 語られるモノガタリのために忘れてしまいそうになりますが、小豆(あずき)も詰めて温州蜜柑の皮袋がようやく完成しましたよ。  ファスナー付きで、お洒落なお手玉みたいですね。実際、お手玉にもできますが。ふふ、冗談です。死せる立花兄妹の新たな心臓となり、かつ温州蜜柑の魂をも留めるものですから、大事に扱わなければ。  そんな話より、次の語りを聞きたいですか? よろしいですとも。鬼切丸同様、とある名刀と同じ鉄から生まれた式鬼(しき)天光丸(てんこうまる)を喚ぶとしましょう。 ……はやく、はやくはやく()んでちょうだい!  浩一様、このまま死んじゃうんじゃないかしら。中途半端はやだなぁ、やだなぁって思ってたら、ひっくり返ってた三郎さんが飛び起きて、御船龍樹の首っ玉に手を回したのよ。背後から、背後からね。  きゃはは、そんなの意味ないよね。  ()ばれる途中のあたしとしては、このまま鉄塊に留められて自由もないなんて最悪なんですけど。きゃはは、笑えなーい。  ところがところが、どっこいこい。三郎さんたらスケベ。振り返った御船龍樹にキス! それも、それもそれも、ディーーープなやつよ。いやんばかん、エッチぃ、と思ったら、口移しでなにか含ませたみたい、みたいよ。  一瞬、一瞬ね、ほんの一瞬、鬼の力が緩んだの。その一瞬で浩一様が(じゅ)を唱えて、きゃはは、やーっと喚び出し、喚び出し、喚び出しだあ。  御船龍樹と浩一様の仲を裂くように、二人の間に喚び出されて、やっと、やっと、やっとっと、ばちんと引き離すことができたよ。やった、やった、やったったあ。  おやおやおや、おやおやおや?  またまた、またまたまた、三郎さんが吹き飛ばされ、吹き飛ばされちゃったねえ。んで、御船龍樹が口元を(ぬぐ)いながら、って、ああ、ショック、ショックだよ。キスして(ぬぐ)われたら立ち直れない。むりむりむり、もう立てない。あっちも立たない、なんちゃって。きゃはは。  龍樹ちゃん? 亜樹ちゃん? なにか喋ってる。なになに、なになになに、なんて言ってる? 『ごめんね、浩一。こんな形でも会えて嬉しいよ。悠里なんて産まなきゃ良かった』
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