第六夜 御船龍樹

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第六夜 御船龍樹

 おや、もう来られたのですか。困りましたね。まだ(うたげ)の最中なのです。我々の仲間も少しずつ去り、先へ行ってしまいました。それを送ることこそが私の最期の務めなのですが。一区切りつくまで、しばしお待ちあれ。  いやはや、お待たせ致しました。みなさま我がままを言われますので困ります。今宵(こよい)鎮守(ちんじゅ)の森が深い緑をなしておりますね。雨が降っているようで、そんな中、よくお越しを。  しかし、雨では致し方ない。もう少し夜風に(さら)しておきたかったのですが、針仕事にかかるとしましょうか。その間の語りは、御船龍樹嬢(みふねたつきじょう)に任せるとしまして。 ……うちの名前は御船龍樹(みふね たつき)や。男みたいで好きやない。千年続く御船家の決まりで、長男でも長女でも家督(かとく)を継げるように男の名前をつけてきたらしい。  いまどき家督やら長子相続(ちょうしそうぞく)やら、あほみたいな話や。そのせいでこんな名前をつけられてもうて、ええ迷惑やで。おかげで性格まで()じ曲がってしもた。  立花浩二を見たときは、それは驚いた。  母親の初恋の相手にそっくりやったんや。浩一さん、浩一さん言うて、よう写真を見せられた。たしかに素敵な男の人でな、なんやうちまで恋しとるような気分になったもんや。  恋の記憶も遺伝するんやろか。浩二を見た時に、思わずくらっと来てもうた。あほらしい。そんなもんに惑わされてたまるかい。あんなへたれ、好きになるわけないわ。  もう母親も死んで詳しいことはわからん。浩一と浩二と、どういう関係やろうと、うちには関係あらへん。うちはうちの恋をするんや。  せやけど、あのへたれ、なんや隠しよるな。久美と一緒に、こそこそとなんぞしとるみたいや。どうも気になって仕様(しよう)がない。  この(まな)()には謎が多い。うちらみたいな通いのもんには隠されとるみたいや。校長のじじいも口を割らへんし。  せやけどさぁ、そんなんさぁ、気に食わんわなぁ。せやろ?  うちの術は隠密(おんみつ)向きやない。そやで、弟の悠里(ゆうり)に探らすことにした。落ちこぼれの悠里でも、たまには役に立つわ。どこがええんか、久美に懸想(けそう)しとるみたいやし、これを機にお近付きになったらええわね。  悠里も女みたいな名前を付けられて、かわいそうになぁ。思わず笑いが漏れてまうわ。くくく。あかんあかん、わろたらあかんな。悠里は、ほんまは男らしうなりたいんやで。
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