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第六十七夜 松野頼清
穢れは触れることによってうつる。では、食うならばどうか。パンとビールとわずかなお金と引き換えに、故人の罪を引き受ける罪食いという風習も、食うことを媒介としていました。
昨今の様々な物語をみても御同様。ゾンビもドラキュラもルーガルーも、噛みつくことで仲間を増やしますね。また、噛みついてうつすことも、食らって取り込むことも同じ文脈のものでしょう。食うことで相手を支配し、身の内にその力を取り込もうとする。
姿を見せぬ黒い犬はどこへ行ってしまったのか。見えぬところで、じわじわと力を蓄えているのかもしれません。
市中の変化を感じとっている者もおり、学び舎とも縁があるらしい松野頼清の語る話です。
……このところ静か過ぎて気味が悪い。
白い犬の件は六花から聞いた。いまは加藤佳乃が世話をしているらしいな。あれは普通の犬ではない。が、悪いものでもないようだ。母も様子見でいいと言っていたよ。
やれやれ、すまじきものは宮仕えか。
代々、伊勢の地の神守りを務めてきた松野家も、いまや神宮司庁で事務仕事だ。仕事優先、家庭優先、神守りの務めは二の次、三の次。金にもならん、人にも認められんことであれば仕方ないがね。六花には継がせたくないな。
うん? 最近は務めも少ないのでは、と言うのか。そうだな。そのとおりだ。市中に妖が出ることが減った。御船龍樹に憑いた鬼が祓われてからは妙に静かだね。市中の妖が減っているのではないかと思う。
しかし、どうも胸騒ぎがする。
嵐の前の静けさとはよく言ったものだ。貪欲かつ狡猾、強力な妖は、害のない弱い妖を餌にして肥え太るとも聞く。
橋姫が祓った鼠の群れのことも気になるな。これで終わったとは思えないのだが。
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