第六十七夜 松野頼清

1/1

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ

第六十七夜 松野頼清

 (けが)れは触れることによってうつる。では、食うならばどうか。パンとビールとわずかなお金と引き換えに、故人の罪を引き受ける罪食いという風習も、食うことを媒介としていました。  昨今の様々な物語をみても御同様(ごどうよう)。ゾンビもドラキュラもルーガルーも、噛みつくことで仲間を増やしますね。また、噛みついてうつすことも、食らって取り込むことも同じ文脈のものでしょう。食うことで相手を支配し、身の内にその力を取り込もうとする。  姿を見せぬ黒い犬はどこへ行ってしまったのか。見えぬところで、じわじわと力を蓄えているのかもしれません。  市中の変化を感じとっている者もおり、(まな)()とも縁があるらしい松野頼清(まつの よりきよ)の語る話です。 ……このところ静か過ぎて気味が悪い。  白い犬の件は六花(りっか)から聞いた。いまは加藤佳乃が世話をしているらしいな。あれは普通の犬ではない。が、悪いものでもないようだ。母も様子見でいいと言っていたよ。  やれやれ、すまじきものは宮仕(みやづか)えか。  代々、伊勢の地の神守(かみも)りを務めてきた松野家も、いまや神宮司庁(じんぐうしちょう)で事務仕事だ。仕事優先、家庭優先、神守りの務めは二の次、三の次。金にもならん、人にも認められんことであれば仕方ないがね。六花には継がせたくないな。  うん? 最近は務めも少ないのでは、と言うのか。そうだな。そのとおりだ。市中に(あやかし)が出ることが減った。御船龍樹(みふね たつき)に憑いた鬼が(はら)われてからは妙に静かだね。市中の(あやかし)が減っているのではないかと思う。  しかし、どうも胸騒ぎがする。  嵐の前の静けさとはよく言ったものだ。貪欲かつ狡猾、強力な(あやかし)は、害のない弱い(あやかし)(えさ)にして肥え太るとも聞く。  橋姫が(はら)った(ねずみ)の群れのことも気になるな。これで終わったとは思えないのだが。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加